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5、原因が分からないのに

奈美子がスーパーを辞めるまで書きあがりましたので、投稿を再開します。

私は、黙々と作業を遂行しようと気持ちを集中し、ミスがないようにと確認作業をしていた。

加藤さんにあれだけはっきり無視された今、信頼を取り戻すには仕事をやり切る。そう決意した。

今日は、チョコレート菓子の補充だ。

私の好物は、チョコレートで、このスーパーで取り扱っている銘柄は、だいたい把握している。

私は、少しワクワクしていた。

チョコレート菓子を見つつ、味を想像して楽しんでみる。

しかし、幸せな仕事だ。

そうだ。確か在庫が全て売りきれたら、取り扱わなくなる商品があったはず。

その棚を見る。

そこに斎藤さんがやって来た。

「佐竹さん。日の丸屋の商品は残っていますか?確か今ある在庫だけで取り扱いが中止になります」

斎藤さんの顔を見たら、否が応でも加藤さんの顔が浮かんだ。

加藤さんが頼りにしている人。

少しイラつきをおぼえてしまう。

でも、きっと仕事ができるのだろう。

とても賢そうで、人を悪く言うような人には見えない。

気持ちを切り替え、齋藤さんの若いのに丁寧な物言いに素直に応じる。

「はい。確認してあります。ありがとうございます」

すると、齋藤さんは、私にそっと近づいた。

何事かと一瞬身体を固くする。

「今朝の加藤さんとのことは、それとなくチーフにお話ししておきますね」

私は、慌てた。

「そんな。大丈夫です。無視なんて、小学生でもあることですし。たかが二度三度無視されたくらいで、チーフに相談なんて……気が引けます。大丈夫です」

問題を大きくしたくない。

そして、自分が問題を起こしたようで気が進まない。

それが正直な私の気持ちだった。

「そうですか?でも、こういうことは早めに手をうっておいた方がいいと思いますけれど」

斎藤さんは、心配そうに眉を顰める。

「取り返しのつかないことにならない内に、チーフに相談した方がよいと思いますよ」

今思えば、斎藤さんが若いから、その言葉を侮っていたのだと思う。

加藤さんに「だから好き~」と言っていた甘ったるい声を思い出し、この子はいざとなるとこんなにきちんとした話し方をするのだななどと場違いなことを考えつつ、私は言った。

「大丈夫です。自分で何とかしてみます」

斎藤さんは、「わかりました」と言って、その場を後にした。

馬鹿だった。

あの時、齋藤さんが言う通り、チーフに間に入ってもらって、誤解を解いてもらえばよかった。

原因もわからないくせに、自分で何とかしますなんて、ちゃんちゃらおかしい。

でも……原因が分かったところで、私にそれを覆すことなんてできただろうか。

人の心は難しい。

そして、自分の心の管理は、もっと難しい。

不安な方向に一方的に流れていく心を、私は自分の心ながら止められなかった。

ここへきて、何度不安の渦に飲み込まれるのを経験しただろう。

でも、社会人を経験している友人たちは、これくらいで不安にならないのだろうな。

ましてや、夫の聡なんか、大企業の中で戦って、私を養ってくれているのだ。

聡も、どれだけ辛い思いをしてきたのだろう。

私は、都合が良いことだけれど、聡の苦労話を今更ながらにすべて聞きたいと思った。

けれど、私は……私はそれらを聞いたところで、この職場で強くあれるだろうか。

手が止まり、自分の弱さに震えた。

チョコレート菓子の袋を鉛のような気持ちで棚に並べる。

先ほどのチョコレートを並べていたときの幸せな気持ちは微塵もなかった。

お読みくださり、ありがとうございました。

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織花かおりの作品
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作成:コロン様
― 新着の感想 ―
[良い点] 真綿で首を絞められるように、少しずつ苦痛が増していく感じが凄くリアルだし、怖いです。 加藤さんがするような扱い、少し色合いは違うけれど、男性にもありますし、個人的にも嫌な思い出が…… 今…
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