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37、夢

奈美子の未来が動き出します。

家に帰って手土産を母に渡すと、私はすぐにパソコンを開いた。

そこに「保育士になるためには」と入力する。

保育士になるためには、3つの方法があるという。

一つ目は、指定の保育士養成施設に入学して、卒業すること。

二つ目は、指定保育士養成施設以外の短大または大学を卒業して、保育士試験に合格すること。

三つ目は、就職して2年間の実務経験を経て、保育士試験の受験資格を得て、合格すること。

私の場合は、大学を卒業しているので、保育士試験に合格すれば保育士になれるようだった。

保育士試験は、年に2回ある。

今なら半年後の試験に間に合うかもしれない。

私には幼稚園教諭の友人がいる。

だから、幼稚園教諭になる方法は、調べずとも知っていた。

それには大学や専門学校に入り直さないとないといけなくて、時間がかかりすぎる。

せっかくつかんだこの気持ちを、なるべく早く昇華させたかった。

「奈美子。お茶を淹れてきたわよ。なあに、帰ってすぐに部屋で調べもの?」

母がザッハトルテとコーヒーののったトレイを机の上に置きながら、パソコンをのぞき込む。

「保育士?奈美子、あなた……」

「お母さん、私、乗り越えられそう。子供のいない悲しみより子供を愛する力が強いことが分かったの」

母が目を白黒させている。

私は先ほどベニマル百貨店で起こったことを話した。

「だから、私なんとか子供に関わる未来を探していて」

母は驚いたようだったが、力強く頷いてくれた。

「奈美子の好きなようになさい。全力で応援するわ」

「ありがとう!お母さん!!」

「奈美子のそんな笑顔、久々に見たわ。聡さんにも、今夜話すのでしょう?」

「そのつもりよ」

私はウィンドウを閉じて、深呼吸をした。

そうしないと、わくわくと逸る気持ちが抑えられなかったから。

そして、私はもう一つ、調べ物をした。

あの男の子の体温が、香りが未だに私に染みついている。

『養子縁組 那須町』、クリック。

那須町には残念ながら、里親制度にまつわる情報はなかった。

しかしずっと画面をスクロールしていくと、大田原市の里親制度についての記事があった。

大田原市は那須から近い。

そこをクリックすると、詳しく書いてあった。

養子縁組をされるまでの間に家庭の温かさを知ってもらうため一定期間子供と過ごしたり、週末や夏休みの1週間預かったりなどするそうだ。

こういった制度があるのか。勉強になる。

そしてもう一度キーワードを入れた。

今度は自分の気持ちを前面に押し出して。

『親になりたい 養子をとる』

すると、赤ちゃんの縁組のサイトが一番上に出てきた。

条件を見る。

配偶者がいること、子供を育てられる気力や体力、経済力があること、婚姻期間が3年以上などすべて問題はない。

一番気になっていたのは、親になれる歳の年齢制限だ。

45歳。

45歳か。あと5年……。

長いか短いか、判断がつかない。

もし養子を迎えようと言ったら、聡は何というだろう?

他人の子を育てる覚悟を持てる人ばかりではない。

実際私だって、あの子と出会わなかったら、養子のことなど考えなかった。

私は頭をふった。

いいえ、私はまだ養子を迎えたいわけではない。子供に関われる未来を探しているだけ。聡とよく相談して、二人で模索しながら、未来を決めていくのよ。

私の心にも、見つめる先にも迷いはなかった。

ただそこにあるのは、いくつかの選択肢。

私はひさびさの胸の高鳴りに、早く聡に電話をかけられる夜にならないかと思い遣った。

そして湧き上がる愛情が子供に対するものだけではなく、同時に夫へのものでもあったのだと気づいた時、真に強くなれた気がしたのだ。



ここまでお読みくださり、ありがとうございました!

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織花かおりの作品
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作成:コロン様
― 新着の感想 ―
[一言] どんどんポジティブな未来を見られるようになった奈美子に感動です。 なにかのきっかけでぱっと霧が晴れたような気分になること、ありますよね。 それがあの男の子との出逢いだったとは。 前向きに夢に…
[良い点] 一気に最新話まで読ませていただきました! 奈美子……良かった…… 一度きりの出逢いや、ほんの些細なきっかけで、人生は大きく変わることがあるんですよね。 そして何より、奈美子は夫を愛して…
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