表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/42

28、家族にばれた

いくつになっても親は親なのかもしれません。

あれからどれくらい経ったろうか?

目覚めると、部屋は真っ暗で、カーテンが閉まっていた。

“私、何時間も寝入ってしまったのだわ”

慌てて隣のベッドを見るが、聡の姿はない。

私は暗闇で迷子になった子供のような気持ちになった。

まるでこの世界で一人ぼっちみたいだ。

私はそろりとベッドから降り、リビングに向かおうとした。

ドアを開けると、リビングのテーブルに深刻な顔をしてうつ向く聡と父と母がいるではないか。

ただならぬ雰囲気に、ものすごい不安が襲ってくる。

“こんな時に何があったの?もしかして聡の仕事に何かあった?”

私は声を絞り出した。

「どうしたの?何かあったの?」

聡がはっと気づいて、私を見る。その目には悲しみが宿っていた。

「奈美子。起きて大丈夫か?」

はっとするほど優しい声。

でも、私は気が気ではない。

「聡。何かあったの?」

聡は、立ち上がって私を抱きしめた。

「ごめんな、奈美子。何も分かってなくって」

私は戸惑った。

「どうして聡が謝るの?聡は何も悪くないのに」

すると、母が鼻をすすって、話し始めた。

「奈美子。奈美子に怒られるのを覚悟で、お母さん、今日花丸スーパーへ行ってきたのだよ。何があったかチーフの金山さんから、色々聞いてきた」

「え?」

殴られたような衝撃が走る。

「奈美子がスーパーでどんな扱いを受けていたか、教えてもらってきた。父さんにも聡さんにも話した」

私は崩れ落ちそうになる。

中年のよい年の娘のために母が動いた。

最初に感じたのは恥ずかしさ、母への怒り……ではなかった。

老いが見え始めた母親にどれほど負担をかけてしまったか。

もう四十路になろうとする人間の問題に、親を介入させてしまった。

情けない。私は生きている価値などないわ。

心に自分への激しい怒りが込み上げてきたが、すぐに悲しみになる。

ごめんなさい、お母さん。恥をかかせてしまって、ごめんなさい。

ぐったりした私を聡が力強く支えてくれた。

それが頼もしくて、“あぁ、私は一人ではないのだ”と、場違いなことを考えたが、聡が内心スーパーでのことをどう思っているのかを想像し、ひやりとした。

「奈美子、辛かったな」

父がそうつぶやいた。

私は、泣きそうになるのを必死で堪える。

スーパーへ母が行った。

ということは、スーパーの人たちに私の今の状態が知られた?

しかも、この歳になって親の力を借りるなんて、なんと思われただろう?

私は口をパクパクさせたが、あまりのことに言葉が出てこない。

「お母さんが奈美子の気持ちを話したら、分かってくれたよ。謝ってくれた」

また崩れ落ちそうになったのを、聡がまた受け取めてくれた。

「奈美子。母さんもあなたの本当の悲しみを何も分かっていなかった。ごめん」

母が謝ったところで、聡が口を再び開いた。

「お父さん。お母さん。ここからは二人で話します」

「そうね。それがいいわ」

母は疲れた顔で笑うと、父と一緒に寝室へ行ってしまった。

私はどうしてよいか分からず、自分の呼吸の音と聡の心臓の音を黙って聞いていた。

「奈美子。眩暈がするといけないから、俺たちも寝室に行って話そう」

これから恐らく、夫婦の根幹にかかわる話をする。

しかも、自分があれだけ家族にどう思われるか不安で、言わなかったこともばれてしまった。

それなのに私の心は、どこかほっとしていた。

聡の声が表情が瞳が仕草が温もりが、全て私に優しかったから。

軽蔑されるなんてどうして思ったのだろう?

聡に抱きかかえられながら寝室へ向かった私は、

「聡、ありがとう」

そう静かに呟いた。


ここまでお読みくださり、ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
織花かおりの作品
新着更新順
総合ポイントが高い順
作成:コロン様
― 新着の感想 ―
[一言] 隠していたことを知られてしまったという焦りと情けなさ。 すごくよくわかります……大人なのにという葛藤も。 でも、聡の優しさが奈美子を落ち着かせてくれているんだなぁと読みながらほっとしました。…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ