24、友の涙
友人って本当に大切で有難い存在ですよね。
次の日、近県に住んでいる友人の美佐子からラインが来た。
「元気にしている?仕事をしたいと言っていたけれど、近所の花屋で募集していたの!奈美子は花屋とか似合うよ。こんなのが近くであったら、応募してみなよ」
店員募集の張り紙の写真が添付されていた。
美佐子には、スーパーで働くことに決まって、すぐ辞めたことは話していない。
それだけ短期間で、私の取り巻く環境は変わっていったということだ。
返信はしたくなかった。
でも既読になってしまっている。
既読にしなかったらしなかったで、心配して電話をかけてくるだろう。
今、とてもじゃないけれど、長年の友とさえゆっくり話せる精神状態ではなかった。
しかしながら、やはりそこは気の置けない友からのメッセージだ。
心の中がじんわり温かくなった。
「こんにちは。元気そうで何よりです。私の方は今ちょっと体調を崩していて、仕事は無理かな」
「えっ?どうした?大丈夫?」
「うん。ちょっと眩暈がするだけだけど、地味にたいへん」
「そうだろうね。医者には行ったの?」
「いずれ行こうと思っている」
「だめだよ。すぐに行かなきゃ。奈美子に何かあったら、私立ち直れないよ」
その言葉に目頭が熱くなるのをぐっと堪える。
「ありがとう、ちゃんと行くから心配しないで」
そこまで文字を売って、どっくんどっくん、脈が波打つのを感じる。
“医者にいって、私はまた悲しみを撒き散らすの?”
病院にはたくさん心が弱っている方たちも来るだろう。
そんな人達が私の悲しみにあてられたら?
健康で働いているスーパーの人たちだって、あれだけのことが起こったのだ。
病院は……。
今考えると、そんなことは杞憂だと分かる。
むしろ病気という傷を持った人たちが集まる、私の悲しみを優しく包んでくれるのが病院の雰囲気だと思う。
でもその時の私には、自分の悲しみがひどく人を絶望の淵へ追いやるように思えていた。
そう言った思考にいつの間にかなっていたのだ。
そうして私は病院さえも行けなくなった。
ピコン。
美佐子からラインのメッセージ。
先ほどのじんわりした温かな気持ちは消え失せ、顔面蒼白で画面に表示されたメッセージを見る。
「奈美子と早くランチしたいから、元気になってね」
あぁ。私は美佐子にとてつもない悲しみを共に背負わせていたのではないだろうか。
美佐子には会うたびに不妊治療の辛さも、子供のできない苦しさも全て話していた。
誰だってそんな悲しい話は聞きたくないだろう。
ましてや美佐子は二人の子供がいて、幸せな家庭を築いているのだから私とは違う。
美佐子は人の何倍も優しい人なだけに、私の悲しみをそのまま背負ってしまっていただろう。
きっと私の話は負担だったはず。
私は最低だ。そんなことさえ気付けなかった。
美佐子にも会えないわ。
それ以降、私が希望を取り戻すまで、美佐子とも私は一切会わなかったばかりか、ラインで連絡を取らなくなった。
後で聞けば、旦那さんの入院と時期がかぶって、私に会いに行こうにも行けなかったという
私と連絡が取れなくて、母に電話して事情を聴いたそうだ。
あまりに心配なため、軽い円形脱毛症になってしまったとも言っていた。
呪縛が解けて1か月ぶりのメッセージを送った時、涙を流して安堵したと美佐子は言う。
そこまで親友に心配をかけ、泣かせてしまった。
後悔するとしたら、あのスーパーで働いたことより、その呪縛に簡単に取り込まれてしまった自分の弱さだろうか、
いやもういい。
今はもう二度と友を不安がらせて泣かせないように、自分自身を何があってもしっかり保っていこう、そう思う。
お読みくださり、ありがとうございました!