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21、ごめんね、聡

更新が遅くなり、申し訳ございません。

再開します。

来週から木曜日更新となります。

仕事を辞めた昨日、私は怠惰に過ごした。

夕飯も遅い洗濯も母に任せてしまった。

仕事を辞めたことを母に話すと、

「奈美子はスーパーとか合わないと思った。これで良かったのよ」

と静かに言って

「何かあったのでしょう?」

と小首をかしげた。

「まだ言いたくないの」

それだけで、私たち母娘は分かりあえる仲だ。

母は、そっとしておいてくれた。

父も何かあったのを察したのだろう。

「良かった、良かった。これでいつでも那須に行けるな」

なんて、軽口をたたいていた。

行けないのよ、お父さん。私は外へは行ってはいけない人間なの。

そう思った時、くらりと眩暈がした。

「おいっ、奈美子。大丈夫か?」

父が私を抱えて、心配した顔で私をのぞき込む。

「大丈夫よ。ちょっと疲れがでただけ」

明日は聡が那須へ出立する日だというのに、私はどうなってしまったのだろう。

私がスーパーに勤めてさえいなければ……きっと名残惜しさと温かさを全開にして送り出せた。

聡にこんな心配そうな顔をさせなかった。

聡が私の顔をじっと見る。

「奈美子。平日になったら、医者に行った方がいい。この間からひどく顔色が悪いぞ」

すぐさま母が追いかけて言葉をつなぐ。

「そうね。たかが眩暈、されど眩暈。医者に行った方がいいわ」

「大げさよ。精神的に疲れただけ。横になっていればすぐ治まるわ」

「だめだ。医者に行くんだ。今からでもいい。俺がいるうちに行こう」

明日転勤する聡にそこまで負担はかけてよいわけがない。

「今日は聡とゆっくり過ごしたいの。医者は平日に考えるわ」

とっさにその場を収めるだけの言葉がするすると口から出た。

“偽善者”

一瞬その文字が頭にちらついて、眩暈が起こりそうになったのをぐっと眉間に力を入れて耐えた。

私は医者には行きたくない。

そんな大げさにしてしまったら、本当に弱いダメ人間のレッテルをはられたようではないか。

「そうか。絶対に平日に医者に行けよ。お義母さん、宜しくお願いいたします」

「分かったわ。聡さん、任せておいて」

心配してくれる聡や家族を前にして、私はこの時あの5人の顔を思い出して、吐き気をもよおした。

そして、そのあと深い悲しみが襲ってくる。

自分のせい。自分の責任。

私が人間として未熟で問題があったから、あの人たちに温かく迎え入れてもらえなかった。

悲しくて悲しくて仕方ない。

自分が不甲斐なくて不甲斐なくて消えてしまいたい。

そんな気持ちを切り替えられずに、転勤前の聡との最後の夜を過ごさなければならないのは本当に辛かった。

聡は母が用意してくれた豪華なディナーを前に優しく微笑んでいる。

私は涙が出そうになるのをぐっと堪えた。

しかし夜ベッドに入って、聡の寝息を聞いた後、スーパーでの話し合いから我慢していた涙が次から次へと溢れた。

傷ついたから?あの5人を責める自分が嫌で?それとも……やっぱり許せなくて?

どれも正解で、どれも違うような気がする。

自分の気持ちさえ分からなくなってきてしまった。

ただ疲れた……。疲れ果てている。

そして私のような弱い未熟な人間を妻にした聡に心から申し訳なく思ったのだ。


読んでいただき、ありがとうございます。

読んでいただかないと、筆が進まないので、思い切って更新しました。

宜しくお願いいたします。

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作成:コロン様
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>仕事を辞めた昨日、私は怠惰に過ごした。 >明日は聡が那須へ出立する日だというのに、私はどうなってしまったのだろう。 >「奈美子。平日になったら、医者に行った方がいい。この間からひどく顔色が悪いぞ」 …
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