2、異変
今回は、短めです。
翌日。
「おはようございます」
あいさつをしながら、パートが使うことを許されている事務室に入ると、冷たい雰囲気がそこにあった。
「おはようございます」
何人かのパートさんがあいさつを返してくれたが、2,3人あいさつを返してくれない人たちがいた。
私は、聞こえなかったのか、この冷たい空気は何かスーパーの上の方から注意があったのか、など、忙しく考えながら、あいさつを返さなかった加藤さんの隣にカバンをおいて、もう一度あいさつをした。
「おはようございます。今日もよろしくお願いします」
加藤さんは黙って、私の横を通り過ぎた。
えっ?
加藤さんとは、昨日を含めて一言も言葉を交わしたことがない。
というか、ネームプレートを見なきゃ、「加藤さん」だということも分からないくらいの関係性だ。
無視をされる理由なんて思いつかない。
私の話し方とか表情が気に入らないのだろうか。
それとも、もともと不愛想なのだろうか。
じゃぁ、あとの二人は?
その人たちに目線を走らせると、やはり無言で仕事場に行ってしまった。
私は、とても落ち込んだ。
よくあることだと分かっていても、やっぱり誰かに無視されることは、あまり気持ちのよいものではない。
でも、仕事はやりとげなければ!
そう気合をいれた。
仕事を一生懸命して、自分の仕事をする姿勢から自分という人間を分かってもらおう。
真面目で誠実な仕事をしていれば、話し方や表情が好きになれないにしろ嫌がられずにすむだろう、と思ったから。
そう、私は単純だ、単純すぎたのだ。
「良い人の部類に入る」と自分のことを思っていた。
家族仲はいいし、仲の良い友達もいる、そして仕事も手を抜かない心積もりをしている。
でも、この職場で私の社会人としての矜持は地に落ちることになるとは、この時想像すらできなかった。
一人前の大人という評価は、得られないまま職場を去ることになるのだ。
そして、それはすでに初日の綿貫さんとの会話で、決定づけられていたのだ。
出勤2日目の私には、知る由もなかったことだけれど。
ここまで読んでくださり、ありがとうございました。