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ひどく疲れ果てた主婦が輝きを取り戻すまで  作者: 織花かおり


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17/42

17、チーフからの電話(6日目)(辞めるまで1日)(聡の転勤まで2日)

16話が短かったので、17話も連続して投稿しました。宜しくお願いいたします。

スマートフォンを手にしたまま、私は逡巡し、5分が経過した。

かけなければならない……。でも、怖い。

情けないと我ながら思う。

もう不惑にもなろうかという人間が、現況報告にしり込みしているのだ。

でも……もしかしたら、こういう些細なことから人間関係や心って壊れていくのかもしれない。

そんなことが頭をよぎって、思わず体が縮こまった。

人間関係も心も壊れたくない!そんな縁起でもないこと考えない!

切羽詰まっていると、場違いなうきうきするメロディが流れた。

同時にスマートフォンが振動する。

見ると、チーフからだった。

先ほどと比べ物にならないほどの緊張が走る。

私は友人の美佐子と発表したゼミでの研究報告の場面を瞬時に思い浮かべた。

もう約20年前のことだけど、その経験は今も大きな成功体験として私を力づけてくれる。

あの時、隣に美佐子がいてくれたけれど、そもそもその研究テーマを提案したのは私だった。

学生が提案するには深いテーマで学外の教授からも注目を浴びた研究だ。

私は大学卒業時、聡との結婚を選んだので、美佐子にあの研究テーマを託した。

美佐子は大学院へと進学したが、美佐子も修士時代に結婚して、結局は博士課程へは進まず、今に至る。

でも、そのことだけが唯一高い社会的体験として、今の私を支えてくれている。

私は学生時代の自分から勇気をもらい、ゆっくり「応答」をタップした。

「はい。佐竹です」

驚くほど冷静な声だった。

「佐竹さん、チーフの金山です。お加減いかがですか?」

「はい。お陰様で昨日ゆっくり休めまして元気です」

どの口が言うのか。

先ほどまで起き上がることさえできなかったのに。

でも、意地というか親しい人以外に弱い所を見せたくはなかった。

「それは良かったです。では、今日来られますか?」

「すみません。今日はちょっと……」

「お休みということですか?」

子供ではないのだ。休むのには、それ相応の理由を話さなければならない。

「あの……チーフ。私どうしても納得いかないことがありまして……」

「なんでしょう?」

チーフの声も静かだった。

だから、私も静かな気持ちで応対できた。

「なぜ、加藤さんに声をかけただけで、お客様に声をかけただけで、人格の問題のような『偽善』という言葉を私に仰っられたのでしょうか?加藤さんが病気を患われているのは承知していますが、毎回のことではありませんし。私に配慮が足りなかったのはその通りですが、『偽善』とまで言われるのは辛かったです」

私はチーフが謝ってくれるかもしれない、謝ってくれなくても言い過ぎたと思ってくれるだろうと思っていた。

「佐竹さん、それについては明日スーパーに来ていただけますか?その時、みんなで話し合いましょう」

みんな?私がトラブルを抱えているのは、加藤さんだけだ。なぜ、みんな?

「みんな?と言いますと?」

「そうですね。佐竹さんが関わった者たちです」

血の気が引く思いがした。

私が関わった人なんて、たかが知れている。

でも、その人たち全員が私に不満があるのだろうか?

「今日は、お休みでけっこうです。明日申し訳ないですけれど、午後2時にスーパーに来てくださいますか?」

私は、氷の風呂にでもはいっているような錯覚に陥った。

体中が震えている。

「はい。分かりました」

受けた答えは、相変わらず冷静な声だった。

でも、心は……

明日、私は取り乱さないでいられるだろうか?

切ったスマートフォンを握りしめていると、口の中に苦いものがこみ上げた。


今回もお読みくださり、ありがとうございました!

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