16、チーフへの電話(6日目)(辞めるまで1日)(聡の転勤まで2日)
今日も短めです。申し訳ございません<m(__)m>
思ったより眠れた。
何度か目を覚ましたけれど、悪夢も見なかった。
私はほうっと息を吐き、隣を確かめる。
聡の寝息が聞こえた。
顔をしげしげと見ると、中年なのに少年のようなあどけない顔をしている。
愛しさと切なさが混ざったような感情がこみ上げて、涙が目ににじんだ。
聡が栃木へ行ってしまう。
スーパーに勤めるまでは離ればなれでも平気だと思っていた。
私たちの絆はそんなことでは揺らがないからと。
でも、それはあくまで私の生活が平穏な場合のみのことだった。
スーパーのことを考えると心細くなる。
胃がきゅうとした。
とたんに起きる気力がなくなる。
〝あぁ、いつまでこんな気持ちにさせられるの?“
ジリリリリリ。いつもより遅い時間に目覚ましがなった。
聡が「ううん」と言いながら、枕元に手を伸ばす。
私は目を閉じて、眠っているふりをした。
聡はベッドに上半身を起こし、まず私の顔をのぞきこむ。
寝ていると分かると、そっと起きて着替えをはじめた。
今日は、土曜日だから聡も休み。
だから私も安心してベッドの中にいられる。
ふとスーパーに電話をかけないと……と気づいた。
昨日の今日だもの、チーフも心配している。
『他人に善意を押し付けるのは、偽善です』
チーフの言葉を思い出して、私は耳をふさいだ。
チーフとしてはきっと止む無しの注意だったのだろう。
でも……。
『偽善』、この言葉は思春期の頃から、とても私を苦しめるものの一つだった。
でも、この時『偽善』の思い出は強く思い出さないですんだ。
それ以上に今、チーフに電話をしなければならないというミッションが迫っていたから。
しかし、この『偽善』の思い出も後々思い出して私を苦しめるものとなる。
それはスーパーを辞めた後のことなので、後日語ろうと思う。
“チーフと話したくない……”
胃液が逆流したかのように、胸がじんじんする。
心臓が自分のものでないのでは?と思うほど波打つ。
怖い。
でも、かけなければ……。
私は震える手でスマートフォンを手にした。
今回もお読みくださり、ありがとうございました!