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ひどく疲れ果てた主婦が輝きを取り戻すまで  作者: 織花かおり


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14/42

14、体が動かない(5日目の夜)(聡の単身赴任まで3日)(辞めるまで2日)

大人になっても、誰かの温もりは心を癒してくれますね。

あの後、どうなったか自分でもよく覚えていない。

戻ってきたチーフが私の顔色を見て「佐竹さん、早退なさい。ゆっくり休んで」と言って、身支度を整えた私を送ってくれた。

チーフが「きついことを言いすぎました。ごめんなさい」と謝ってくれたが、私はただ首を横に振っただけの気がする。

今、ベッドの中だ。

「奈美子、おかゆでも作ろうか?」と母が、甘やかしてくれる。

後から聞いた話だが、私が帰ってきた時、母は私の魂だけ帰ってきたのかと思ったそうだ。

顔面蒼白で、表情がない。

これは、本気でまずい状態だと瞬時に悟ったという。

私は、母に家事全てを任せて、ベッドにすぐ横になった。

着替えるのも辛かった。

ベッドの周りに脱ぎ散らかしていたのを、母が洗濯カゴに入れてくれた。

体が鉛のように重い。

自然な呼吸の仕方を忘れてしまったかのように、息も重い。

浅く眠ってはびくっと何かに怯えて起きて、の繰り返し。

悪夢を見るのが怖くて、睡眠を取るのさえ怖かった。

「奈美子、入ってもいい?」

「うん」

私は、やっとの思いで返事をした。

母は、そっと私の傍らへやってきて、腰をかがめて、顔をのぞきこむ。

母の皺が増えた手が、私の頬を優しく撫でた。

「奈美子、おかゆなら食べられる?」

私は、頭を横に振った。

「そう、わかったわ。お腹がすいたら、作ってあるものを温めて食べればいいわね」

母は、私の顔をもう一度撫でて、髪を優しく顔から耳の後ろへかけてくれた。

何も聞かないでいてくれるのが、ありがたかった。

そして、母のぬくもりが本当に優しくて、もう良い大人なのに離れがたい。

私は思わず、母の手を握った。

母は、優しく握り返す。

「奈美子。どんな時だってお母さんは、奈美子のお母さんだから。お父さんも味方だし、聡さんだってそうよ」

聡と聞いてびくっとした。

聡は、もうすぐ栃木へ行く。

それなのに、心配をかけるわけにはいかない。

「聡が帰ってくるまでに起きなきゃ。今、何時?」

母は少し厳しい声で言う。

「奈美子。体調が悪いのなら、寝ていなさい。あなたが普通の状態でないのは一目瞭然よ」

「お母さん。聡が……聡が大切な時に、私こんな風になってしまって……」

涙が、すうーと出た。

聡にもお母さんにもお父さんにも、申し訳ない。

「大丈夫よ。そのための同居でしょう。今はゆっくり休みなさい。聡さんには大好物のブイヤベースを用意したから」

「お母さん、ありがとう」

「落ち着いたら、何があったか話してくれるのでしょう?」

何と答えるのが正解だったのだろうか?

私はその時、一言も言えず、ただ涙を流し続けた。

「分かったわ。ゆっくりでいいから。明日は、仕事を休みなさい」

その言葉に、私は重くうなづいた。

大人の私は知っているからだ。

たった一日休んだとしても、何も事態は変わらない。

むしろ、あの状況では悪化するかもしれない。

取り敢えずの休息。

それでも体を動かさなくて済むのは有難かった。

思うように動かない体を引き延ばそうとベッドで伸びをしようとしたが、全く体は動かなかった。


今回もお読みくださり、ありがとうございました!

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