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ひどく疲れ果てた主婦が輝きを取り戻すまで  作者: 織花かおり


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10、奈美子の夢(勤めてから5日目の朝)

個人的に、夢見が悪いのは好きな状態ではありません。

弱っている時にこそ、良い夢を見たいですね。

夢を見た。

加藤さんが斎藤さんと楽しそうに話をしている。

私はあいさつをしようかどうか迷うが、加藤さんの私に向けた冷たい表情に身をすくませる。

建物の中なのに寒い。

私は寒くて寒くてぶるぶる震え始めた。

加藤さんたちは春の陽だまりにいるかのように、そんな寒そうな素振りも見せず、笑いあっている。

場面が変わった。

大勢の人が現れ、私は背が縮んで小さくなり、大勢の人を見上げていた。

みんな加藤さんと斎藤さんのところへ集まっていく。

「加藤さん!」

「加藤さん!」

たくさんの人が加藤さんの名前を呼んで、加藤さんを称える。

その中には、綿貫さんや小畠さんもいたような気がするが、本当にたくさんの人が加藤さんを好いていた。

私は、それを悔しいのか悲しいのか苦々しいのか、複雑な気持ちで見つめていた。

でも、その夢はそれだけでは終わらなかった。

私はその頃には本当に小さくなり、蟻くらいになっていた。

これ以上、縮まないで!!止まって、止まって、お願い!

元の大きさに戻りたい!

そう繰り返し願ったが、戻らない内に、加藤さんの元へ行く人たちが側まで迫ってきた。

かつんかつんかつん。

どっどっどっ。

足音が迫る。

いやっ、来ないで。

ここには、私がいるんです!

踏まないで!

私がいるんです!!

そこで、ぱっと目が覚めた。

心臓は激しく動悸している。

とても気分が悪かった。

隣のベッドを見たが、空っぽだ。

しまった!寝坊した!

今、何時かしら?

時計を見ると、7時10分。

まずい!

いつもなら、朝ご飯を食べ終わっている時間だ。

ぐらり。

眩暈がした。

思わず、壁に手をつく。

それでも、ドアを開けると、聡がせわしなく朝食をとっていた。

「ごめん。寝坊した」

「あぁ、別にいいよ。時間がないから、片づけは頼む」

いささか不機嫌だ。

ぐらり。

また眩暈がした。

しかし、聡に悟られないようにする。

単身赴任を控えた夫に心配はかけられない。

母は、どうしたのかしら?

そうだ。

父と母は、栃木県へ家を建てる土地を見つけに行っているのだったわ。

こんなことも頭からすっぽり抜けるなんて、私ホントどうかしている。

歯磨きを終えた聡が、カバンに書類をつめこんでいく。

「寝坊してごめんね」

素直に謝ると、聡も機嫌を直したようだ。

「たまには、そんなこともあるさ。今朝も顔色も悪いし、疲れているんだろう」

「う~ん、ちょっと夢見が悪くてね。気分が悪くなっただけ」

聡は、しかめっ面になった。

「夢見?馬鹿だなあ。そんなことで、気分を悪くしていたら、身が持たないよ。もっと地に足がついた思考をしないと」

もっともだ。

私もそう思う。

しかし、私にとってみれば、あの夢は本当に恐ろしくて、子供のように抱きしめられて「大丈夫だよ」と言ってもらいたいくらいの代物なのだ。

聡には、何も言えないなと思った。

職場で2、3度無視されたくらいで、これだけのダメージを受けている私など、それこそ甘ちゃんで地に足がついた思考ではないと思われるだけだろう。

こうして一番の味方であるはずの夫への相談も、私は後手に回してしまうことになったのだった。


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