20:弟の筆おろし
弟の誕生日まであと一月ほどになったので、筆おろしの準備がはじまるらしい。マリエルに聞いたら、子供を育てた経験のあるメイドが朝の清拭や夕刻の湯浴みのときにお道具を刺激して少しずつ皮をむく癖をつけながら溜まっていた垢を洗い落とすんだって。うん、まあ、大事だよね、綺麗にしておくの。ユリの時の記憶では子宮頸がんの原因になりやすいって話もあったような気がするし。
そうこうしているうちに弟の誕生日が来た。そう、弟が筆おろしをする日でもある。貴族の長男の筆おろしは『男女の交わりを快楽を求めるのではなく貴族嫡男の義務である子を成すために正しく行ない、かつ新品の筆を降ろす先は新品の硯たるべし』ということで処女の女の子をお相手に避妊とか一切なしで番の男女としての一夜を過ごさせるっていう意味がある習慣なんですって。といっても貴族の女の子に結婚前に処女を失わせるわけにはいかないから平民の女の子で。
派手なお誕生日会みたいなものはないのだけれど、午後になってお父様の従兄弟の非公式のお妾さんの子供だという弟の一つ下という女の子が連れられてこられた。すごく緊張している感じで上目使いで弟をチラチラ見てる、かわいい。
来る前に言い含められてるはずだから、たぶんすごく意識しちゃってるのね。
その日の夕食メニューがねぇ。サラダは普段のものにニームの葉を少量追加したミモザサラダ、生姜とオタネニンジンの千切りをたっぷり加えたスッポンのスープ、メインにヨヒンベの樹皮を混ぜた香辛料を振った焼き牡蠣。デザートにアボカドとチーズ。そして最後にジャスミン茶。もう、露骨にそういう食事だよね。
夜寝るときに弟たちは今頃シてるんだろうなぁって想像しながら眠っちゃったからちょっとエッチな夢を見ちゃって夢の中でお漏らししちゃった。当然朝のベッドはね・・。
翌朝、女の子は家に送り届けてもらう車に乗るときにちょっとがに股気味に歩いてた。泣いてたり絶望したような表情じゃなくてちょっとにへらっとした顔してたからよかったよ。
でも避妊しないでしたんだからこの子のお腹の中にもう私の甥か姪がいるかもしれないと思うとちょっと複雑な気分よね。
ついでにお母様も今朝はお肌に張りがあって目に見えて機嫌がよかった。まあ、お父様もおなじ食事をとられたんだからそういうことだよね。
弟はこれで“子供”から“男子”になったという扱い。昨日まではお母さまや私と一緒のときは私たちに守られるべき存在だったものが、今日からは女性と一緒のときは守る側の人と見なされるということ。女性をエスコートすることもしなきゃいけないし、女性が危険に晒されたなら身を挺してまもらなくちゃいけない。エスコートはともかく守るのは一緒にいるのがメイドでもだ。実際には万一の時にはメイドは盾になるんだけど、姿勢としては守る側。まあ肉親や貴族以外の女の子なら求めればエッチさせてもらえるんだからそのくらいは頑張らなくっちゃね。結婚は成人してからだけど、“貴族籍の子供”ではなく“貴族籍の男子”として認められるということは適切に性欲を満たす必要とその権利があると社会的に認められるということで、使用人や平民の女の子をお手付きにすることが当然のこととして許されるんだもの。女の子だって結婚前にエッチなことをしたかったり内緒で子種が欲しいときはそういう人にお相手になってもらうのは「あってもいい」ことになってるし。
8/4:送り仮名1ヶ所訂正。
3/7:送り仮名および読点の追加修正。




