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何故か御曹司様の腕の中にいます。

「何故逃げる?」


えっと、何故って、それは……。

なんで?

そんなの知らない。

わからない。

何故って言われたら逃げたかったから?


って、それどころじゃないんですけど!!


「え~、なんとなく?」


顔を逸らしながら私は答える。

あのですね、坊ちゃん。

ここ、廊下なんですよ。

廊下。しかもすぐそばには階下に続く階段がある。

そしてその階段の下には興味津々という顔で見上げている通りすがりさんが1人2人3人。

私の同僚ですな。

同僚なのでもちろん顔見知りな3人。


手に持ってるのは箒にバケツにハタキに雑巾?

掃除?うん掃除だね?

皆で手分けして掃除に向かうところだったんだね?


ご苦労さま、お疲れ様、はよ行け!!!



なんだろう?

やたら心臓バッコバッコ言ってるんだが。

や、言うか?

うん、言うわなそりゃ。


だってあきらかにおかしな状況なんだもん!!!?

何故私は御曹司様の腕の中にいる?

あ、あれか。

勢いか。

走ってたとこ腕を取られてグイッとされたから、勢いで入り込んだのか?


頭ん中ぐちゃぐちゃ、とりとめもなくあれこれ考えてる私。そんな私はただ今巷で氷の貴公子様とか呼ばれちゃってる御曹司様の腕の中にいる。

それはもうすっぽり入り込んで胸に抱き寄せられた状態になっている。




強制的に本日の休みを言い渡されて、自分の部屋に帰ろうとした矢先ーーいたんだよね。

部屋の前にハルトバレル候爵家の御曹司、氷の貴公子様ことアルシェイド様がいたのだ。

何やら難しい顔で。

そして何故か逃げ出してしまった結果。

何故か廊下で同僚たちの見上げているなか、胸に抱きこまれていると、まあ、そんなわけでございます。


なんで?!


え~っと、え~っと、まずだ。


「坊ちゃん。…………アルシェイド様……アル様?ーー近いです。近すぎです。逃げないんで放してもらえます?」


面倒くさい男で、もともとは「坊ちゃん」呼びが主だった。使用人は大抵そうだから。

それが何故か近頃私に名前呼びを強要してくる。

今も坊ちゃんだとあきらか不機嫌顔で見下ろしてきて、しかも腕に力がこもった。アルシェイド様だとちょっとだけ改善したけどまだ不服顔だった。

アル様でようやく少し腕が緩む。

ついでに階下に視線を向けてくれたので出歯亀だった同僚たちがパタパタと退散していった。

そのことにホッとする気持ちと、後が怖いと思う気持ちと、半々で私は口を開いた。


「失礼しました。なんか、そう!夢見が悪かったんですよ!!ゆうべ変な夢見ちゃいましてですね。え~っどんな夢かと申しますとアル様になんかえらく叱られる夢を見てしまいまして、そんなもんでつい逃げちゃいました」


嘘だけど。

今めっちゃ適当に作りましたけど。

それっぽい言い訳になったかな?

夢見が悪かったのは確かだが。

あ、わかった。

なんで逃げたのか。


ーー夢だ。

ゆうべ見た夢。

叱られたんじゃなくて、酔っぱらってアル様とムニャムニャしてアンアン言っちゃってる夢。

ああ、そうだった。それでメリーの庵にも行ったんだ。

で、ついでに薬も頂いて来たと。


知己であり何より魔女で変態なメリーになら自分の見た変態チックな夢も相談しやすいかと思って。

だってあんな夢を見るなんて痴女か欲求不満みたいで恥ずかしいじゃないか。

けどあまりにもリアルで怖くなっちゃったんだよね。

それでメリーに私大丈夫かな!?と相談に行ったのだ。

変態なメリーなら白い目で見られてもオマエが言うなってことで私の心痛は少しは軽減されるかな、と。



「ーーは?夢?」


訝しげに眉を顰めるアル様。


「はいはいそうなんです。で?何かご用ですか?」


朝から何用で他人の部屋の前に突っ立っていたのかと、問いかけた私に、アル様は凄まじい渋面で私の顔を覗き込んだ。


その顔を見た途端、私は「お茶」と思う。

アル様にお茶を入れなくちゃ。

だって『アレ』を飲んでもらわないとだから。


なんだか頭がふわふわする。

よくわからない何かに突き動かされるように私はアル様の腕を掴む。


「アル様、お茶飲みませんか?」

「は?」

「お茶ですお茶。走ったし喉渇いてません?私お入れしますから、飲みましょうよ」


言いながらぐいぐいとアル様の腕を引っ張った。

お茶だ、お茶。

なんとしてもお茶を飲んでもらわなくては。

どこで?ああもう私の部屋でいいか。


自室にアル様を引きずり込んで、椅子に座らせる。


「お湯をもらってきますから待ってて下さいね」


アル様にそう告げて走ってお湯をもらいに行った。

早く、早くと気が焦る。


早くアル様にアレを飲ませないと。

アレ?アレって何?

わかんないけど、飲んでもらわないと困るのだ。

お湯をポットにもらって、部屋に戻るとアル様は椅子に座ってちゃんと待っていてくれた。


「すぐ入れますからね」


ちゃっちゃっとお茶の用意をして、茶葉を入れたティーポットにお湯を注ぐ。

そこにーー。

私はポケットに入っていた小瓶の中身を入れた。

完全に無意識に、入れていた。



その手を、背後から背中ごしに伸ばされたアル様の手が握る。


私はボンヤリと首から上だけでアル様を見上げた。


「……主人の茶に堂々と妙なものを入れるとは、いい度胸だな」


ーーんん?


あ、れ?

なんで?


アル様が私の手の中から半分ほど中身の残った小瓶を取り上げてにっこりする。

にっこり、なのに黒い。

めっちゃ黒い。


え?なんで?

なんかいきなりピンチみたいなんですけど。


何がどうしてこうなった。


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