契約
_____四年後。
「リオ起きろ。遅刻するぞ!」
ハオの一日は寝起きの悪いリオを起こすことから始まる。
「…う~ん」
まだリオはベッドの中で寝ぼけている。
「こら、リオ。起きろっ」
ハオはリオの布団を剥ぎ取ろうとする。
「相変わらず朝弱いんなぁ~。いい加減起きたらどうや?」
ハオの言葉の後に、色黒で長身のショートヘアの女性の声が続いた。その聞き覚えのある声に、リオは勢いよくガバッと起きた。
「スミちゃん!!」
「はよ準備しーや」
スミはクスクス笑った。
「リオ、パン何枚食べる?」
ハオの質問に元気よく答える。
「1枚っ!」
それを聞いたハオはリオの部屋を出て、リビングに向かった。
「じゃあ、うちも外出てるから、はよ着替え」
「うん。待ってて」
スミが出ていくのと同時に、高校のセーラー服を取りだし、急いで着替えた。
ハオの焼いたパンを食べながら急いでスミの待ってる玄関に向かった。
「おー、早いやん」
「待たせてごめんね~」
リオの言葉に「いつものことや」とスミは笑った。ハオはいつもどおり外まで二人を見送った。
「リオ、気をつけろよ」
「うん。いってきまーす」
二人の姿が見えなくなると ハオは家の中に戻った。しばらく歩いて、スミがいつも思っていた疑問をリオにぶつけた。
「なぁ、ハオちゃんていつも見送ってくれるやろ?自分は学校行かんの?登校拒否かなんか?」
「えと…。」
スミの質問に答えることが出来なかった。
「今12、13歳位やろ?絶対モテんやろうなぁ。」
「………」
スミちゃんには言った方がいいのかな…。ハオも私達と同じ16歳だってことを。
ハオとリオは双子で 顔もよく似ているし、髪型も腰まで長い。違うといったら、リオはウエーブがかっていて、ハオはストレートだ。
そして明らかに違うのが背。否、年齢というべきか。二人共に育った筈なのに、なぜかハオだけがいつからか成長が止まってしまったのだ。リオには原因が全く分からなかった。
二人が学校へ向かっている頃、ハオは亡くなった両親の趣味で作った図書館ともいえるような書斎で、長い机の上で寝転がって本を読んでいた。
「お前も学校に行きたいのか?」
ハオ以外誰も居ない筈の家に 白髪のいつかの男が立っていた。
「……」
ハオは答えることなく、本を読み続けた。
それでも男は続けた。
「本当は、リオが羨ましいんだろ」
━━━━━バンッ!
リオは勢いよく本を閉じた。
「うるさい、カイン。呼んでもないのに出てくるな」
「ハイハイ、お姫様。」
やれやれと言いたげにカインは消えていった。
ハオは読書を続けたが、カインの言葉を思いだし、集中出来なかった。
━━━リオが羨ましいんだろ?
違う!そんなことない。
自分で決めたんだ。後悔はしない。
小さい頃からリオは人間より超越した魔物に狙われた。原因が幼い自分にはよく分からなかったが、両親は小さい頃からリオを守るよう、よく言っていた。
両親はハオに沢山の魔法や剣術を教えた。もちろん子供なので、下級な魔法しか出来なかったが…。
それでもハオは一生懸命勉強した。
そんなある日、リオを守って両親は亡くなった。リオはその時の記憶がなく、両親は事故で亡くなったと思っている。
「これからは、私がハオを守るんだ。」
ハオは心に強く誓った。
両親の居ない今、頼れるのは自分だけだ。
しかし、四年前━━
ハオの人生が変わる出来事が起きた。
それは、雨の日。
いつも通りリオは学校へ通った。この時のハオは学校で勉強するよりは、家で魔力の勉強することが多かった。
今思えば、なぜあの時一緒に行かなかったのか。何度も後悔した。
しかし、どのみち結果は一緒だったはず…あの時は無力だったのだから。
まだスミと出会う前で、うっかり者のリオは傘を忘れていた。家を出て5分位は快晴だったのだが、天気予報どおり土砂降りになった。
ハオは傘立てにリオのお気に入りのチェック柄のピンクの傘が差さっているのに気付いた。「リオのヤツ。昨日あれだけ持っていけって言ったのに」
ハオは、色違いの黒の傘を差してリオを追いかけることにした。
「この雨だ。雨宿りでもしているだろう」
ハオもできるだけ学校には近寄りたくなかった。先生に捕まれば授業の出席を強要されるだろう。実際、ハオのレベルで習うこともないのだが…。
まだ歩いて1キロもしない所でリオは居た。バス停の軒下で小刻みに震え、泣きそうだった。
そんなリオの姿にハオは笑みを溢す。ゆっくり近づき名前を呼ぼうとした。