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とある喫茶店の小さな物語  作者: 石田あやね
3/4

≪わたしの場合≫01

 朝9時。

 わたしは商店街の一角にある昔ながらの喫茶店に足を向けていた。

 ドアを開ける。懐かしいベルの音が頭上で鳴ると同時に、昭和初期を感じさせるジャズが店内の雰囲気を邪魔しない音量で流れていた。そして、挽き立ての珈琲の香りが鼻を心地よく刺激する。


「いらっしゃいませ」


 カウンターで、彼は少し焦ったように挨拶した。そんな姿を微笑ましく思いながら、わたしは軽く会釈する。

 彼がわたしを目で追うのを背中で感じた。それに気付きながら、普通を装って指定席へと向かう。一番奥の窓際のテーブル席が一番のお気に入りだ。窓際だから明るいし、景色も楽しめるから、なんて単純な理由ではない。もっと特別な理由がわたしにはあった。


 それは、この席がお店全体を見渡せて、彼の行動が逐一観察できるから。


 茶色の革製のソファーに腰を下ろしたところへ、彼がメニューを持って現れた。


「ご注文はお決まりですか?」


「珈琲をひとつ」


 そう答えると、何か言いたそうに唇を動かす彼。だが、結局なにも言わずに戻っていってしまう。その残念そうな姿を何度見てきただろうか。


 この喫茶店へ通い初めて三ヶ月。


 わたしは、わたしに恋する彼を見守り続けている。


「お待たせいたしました」


「ありがとうございます」


 わたしは、彼に恋をしている。

 彼がわたしに恋するよりもずっと前に……


 だけどあなたは、きっと気が付かない。


 しかし、この現状こそがわたしの心を最高に満たしてくれているのだ。

 彼と出会ったのは、中学二年の時だった。彼と初めて同じクラスになり、わたしは初めて一目惚れというものを経験した。そして、初恋でもあった。

 その当時のわたしは、内気で臆病で、友達も少なかったせいで暗いというイメージを持たれていた。趣味が小説を読んだり、イラストを描いたりと地味だったから尚更だった。クラスでは浮いた存在。それが理由で虐められることは無かったが、時折心無いからかいの言葉は聞こえてきた。


 しかし、彼は違った。


 偏見も軽蔑もなく、普通のクラスメイトとしてわたしに接してくれた。誰かが言ったからかいの言葉を聞けば、さりげ無くわたしを気遣ってくれた。


「あんまり気にすんなよ」


 その一言がどれだけ救いだったか分からない。それが例え唯の親切心だったとしても、彼への気持ちは日毎に膨らんでいった。それからというもの、いつも彼の姿を捜し求めるように目で追う毎日。けれど、自分の気持ちを口にすることは出来なかった。する勇気が当時のわたしには残念ながらなかった。


 だから、決めたの。


 あなたを振り向かせる女性になろうって。

 その日から、わたしは彼のためのノートを作った。どんなことが好きなのか、どんなことに興味があるのか。誰とどんな会話をしているのか、行く場所には必ず付いていった。


 ーーさすがにトイレにまでは付いていってないわよ?


 あなたが買った本や雑誌も全部買って読んだし、誰かと付き合ったと聞けば、彼女の特徴や性格をこと細かく記録した。全ては、あなたが目を奪われるような理想の彼女に近付くため。


 高校はわざと別のところを選んだ。


 けど、欠かさずあなたに会いに行ってはノートを書き続けた。ダイエットも始めて、言葉遣いや仕草、メイクにファッションも勉強したわ。


 自分磨きの3年間を終え、わたしは大学生になった。

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