それぞれの長所
今回は副会長×生徒会長です!!
生徒会長→自分に自身がない鈍感女の子
副会長→皆のリーダーだけど自由気ままな男の子
生徒会長と言うと、皆をまとめて引っ張ることが得意なイメージがあると思いますが、私「桜丘 歌」は生徒会長でありながら、それが一番苦手なのです……
生徒会室にて。
「では今日の委員会は終わります。」
副生徒会長の号令で生徒会員の皆が礼をし、ガタガタと机を元の位置になおして出ていっていた。
私は生徒会長だが、この頃はもっぱら、副会長の方が会長に向いているのではないかと思ってしまう。
ついつい深く考えて、帰っていく皆の後ろ姿をボーッと見つめていると、目線に気がついた様に、同じく3年生で図書委員長の佐藤さんが振り返った。
「あれ、会長は帰らないの?」
「え? ああ、帰りますがまだやりたい事がありまして……」
彼は皆の事をよく見ていて、一番気配りが出来る人だ。その言動を見て流石だなぁと感心した。
「なんなら僕も手伝うけど」
「いえ、すぐ終わるので一人で大丈夫です」
左右に手をブンブンふりって苦笑いしながら、心の中で彼の親切心に感謝する。
「へぇ、そう。」
彼はそう言って、「じゃ」と一礼するとみんなに続いて生徒会室を出ていった。
ガタンと虚しい音を立ててドアが閉まり、騒がしかった所が急に一人の空間になる。
「私も頑張らなくては……」
皆の意見をまとめていた副会長や、気配りのできる図書委員長を見て、そんな気持ちになった。しかし私にはあの方たちの様に行動できない。
「だからせめて……」
椅子の後方にある古い茶色の棚から原稿用紙を3枚程取った。 今度ある講習会のお礼の言葉と新入生歓迎の挨拶、あと生徒会からの放送の原稿だ。人に何かをするのは苦手なので、作業的な仕事は誰にも負けたくない。
「あら、そういえば生徒会新聞もあるんでしたっけ?」
寂しい空間を埋めるように、大きな声でひとりごとを言ってもう一枚原稿用紙を取った。
「今月は生徒会新聞無いよ、会長。先生がまとめて作ったみたい」
「そうだったんですね。」
では一枚必要なくなりましたね…… そそくさと取ったばかりの原稿用紙を戻した。
―――え?
「えっ!? なんで副会長がいるのです!?」
「イエーイうたちゃん」
び、びっくりした……! 私の居た机を挟んで向かい合うようにして、サラサラの黒髪の副会長がこちらをジーッと見つめていた。
「イエーイじゃなくて! あとうたちゃんって呼ぶのいい加減やめてください。」
「え? うたちゃんはうたちゃんだよ?」
正直副会長は生徒会員の自覚が無い。ゆえにチャラチャラしている。それを見ていると何故この人が皆から慕われるのか疑問が残る。
観察するようにジロジロと彼を見ると、一つまで開けていいシャツのボタンを彼はオーバーして二つも開けていることに気がついた。
「副会長、一つボタンしめてください服装違反です。」
「へ? 良いじゃんこれくらい」
まただ。この人は注意しても注意しても何かしらの服装違反をしてくる。だから前は口頭で注意していたが、この頃は私が強制的になおしているのだ。
「まったく、何故皆は私じゃなくてこんな人について行くのでしょう……」
日頃はあまり愚痴を言いたくは無いのだが、この人に向かっては言えるのだ。副会長はあまり人の話を聞かないのがその理由だと思う。この人は愚痴っても殆ど聞いていないと認識している。
「オレだけじゃなくて、うたちゃんも十分支持されてんじゃん?」
副会長がうざったらしく指を鳴らして聞いてきた。
「いえ、私は何も出来ない人間ですから。司会をしたり、意見をまとめたり、サポートしたりするのは苦手ですので、副会長が羨ましいです」
「え、照れるんですけど。」
事実だから。この人がいなかったら私は会長として成り立っていない。
「でも、これはいけ好かないですね。」
「ちょっ、うたちゃん、首絞まる!首絞まるから!」
向かいあっている副会長のシャツを無理やり引き寄せて、ボタンを一番上まで留めようとした。副会長の助けを呼ぶ声を無視して一つ閉じる。
しかし、一番上が中々閉まらなかった。
「うたちゃん〜 苦戦中?」
「いえ、そんなことは無いです。」
返答に負けず嫌いの性格が出てしまった。
あと少しというところでボタンがツルッと滑り、頑なに入ってくれない。
「……ねぇうたちゃん」
「いやもう出来ますから!」
副会長がやたらと急かしてくるので遮ったが、彼はお構いなしに、そして拗ねた子供のような声で続いてこんな事を聞いてきた。
「……うたちゃんって自己評価低いけど、何もできない人間ってマジで言ってる? 会長になってもそれ言い続けるの?」
「私はいつも副会長に助けられてばかりなの、貴方がよく分かっているでしょう?」
副会長の話よりボタンを留める事で精一杯だったので上の空で返事をした。
その時、上手い具合にボタンがスルッと入ったのだ。嬉しくなってつい大きな声が出た。
「はい、留めました!」
ボタンからパッと手を離そうとしたその瞬間、副会長はとっさに私の右腕を掴んだ。
男の人の手を知らない私は、その行動に驚いて抵抗の声も出なかった。
「うたちゃんは頑張ってるよ。偉いよ。真面目だし、努力家だし、優しいし、可愛いし」
「えっと……副会長?」
急に副会長が褒めてくれた。え、何で?
「だから、もっと自分に自身持っても良いんじゃないかな? ね?」
彼の綺麗な目が私を一筋に見つめた。
心なしか、何も悲しくないのに慰められているような気分になった。
何が起きているのか分からず、私は大きなクエスチョンマークを頭の上に出して首を傾げた。すると副会長はピンと来ていない私を見て驚いた顔をしていた。
「マジ? 分かんないの? じゃあ聞くけど自分が会長に選ばれた理由って何だと思うの?」
うーん、心当たりは……
「……偶然ですかね?
それとも日頃の行いが悪いから!?」
「いや、そうじゃない。」
副会長は左右に首を振った。あ、違うんだ。
「えっと、では頭が良いから? ほら私勉強出来るじゃないですか。」
「そこはハッキリ言うんだ……」
学年1位って知られているのに謙遜する必要は無い。それにあっちがふってきた話題だ。
私は逆に副会長にも質問してみた。
「副会長は? 何故慕われているか考えたことがありますか?」
副会長は自分の考えは正しいと常々思っているタイプだから、沢山出てくると思っていた。しかし彼はしばらく考えてパスをした。
「そう言われると難しいな……ねぇうたちゃん。うたちゃんってオレの何処がいいと思う?」
「良いところですか……?」
私の腕をつかむ彼の手に力が入って締め付けられた。
「常に周りを見て行動しているところ、いつも笑顔で元気なところ、意見を沢山出して話し合い進めるところ、アドリブでその場を切り抜けるのが上手なところ……」
「はいはい! もう良いから!」
まだまだ言いたいことはあったのに、副会長が強引に止めにかかった。自分から言ってきたのに。この人は何をしたいのだろう。
「まだ4つしか言ってませんが……?」
「それオレが超イケメンに聞こえるからやめて! オレそんなカッコイイの!?」
「はい、かっこいいですよ。」
副会長はゆっくりと手を離した。熱が離れていったので腕のあたりがスースーして落ち着かない。
「じゃあオレもいいかな。うたちゃんの良いところは、努力を何に対しても一切怠らないところ、自分に妥協をしないところ、常に成長しているところ、人には優しいところ、相談の聞き役が上手なところ……」
「副会長、大丈夫ですか!?」
彼は息継ぎをせず、一気に早口で殴るような勢いでそう言った。私がなだめようとすると、手を私にかざして止めた。
目が、まだ言いたいことがあると言っていた
「そして、こんな自由なオレも叱ってくれるところ、オレを構ってくれるところ、オレを直してくれるところ、オレを褒めてくれるところ、オレを見ていてくれるところ。」
だんだん彼の言葉の本質的な部分が分かってきた。それより自分が副会長に助けられているだけではなくて、私も彼の役にたっていると思うと、凄く、凄く恥ずかしくなって。
そして少し涙が出た。
副会長と目が合う。
「え、なんで泣いてんの!?」
彼は「俺のせい? 俺のせい?」と言いながら落ち着かない様子であわあわしていた。
「副会長のせいです。そんなこと言われたら泣きたくなりますよ……」
頑張ってきて良かったなと思った。
副会長のせいで真っ白な原稿用紙を手に取った。
「これは帰ってするしか無いですね……」
「なんかごめん」
「かまいません、では帰りましょう。」
「え? 一緒に帰るの?」
「何を言っているのですか。私の家と副会長の家は逆方向でしょう?」
「デスヨネー」
副会長は肩を落として笑った。本当に伝えたかった気持ちは会長に全然伝わっていなかった。
「でも、昇降口までならいいですよ。」
「……お、サンキュ」
副会長は、もう一度聞いてみることにした。念の為、念の為。
「うたちゃんは、俺のことカッコイイと、思ってるんだよね?」
「はい。」
「俺のこと……その……好きだったり……」
「好きですよ。」
即答、だった。 いつもと変わらない淡々とした返事だった。
「そっか。」
これはまだまだ付きまとう必要があるな。
「好きですよ。」
平然を装った。
2話に登場していた図書委員長が出てきたの分かりましたか?
こういった感じで、これからもみんなが他のキャラと繋がりを持っているかんじに書いていきます!