言いなり女子× 図書委員長
前回に続き、舞台はまた図書館です。
そろそろ外の世界に飛び出したいですね……
図書館って割と苦手な方だったのに、毎日ここに通うようになったのは間違いなくあの図書委員長のせいだ。
あの日は何で図書館に行ったのか、あまり覚えていない。放課後だったから、たしか部活で忙しい友達の本をかわりに返しに行ってあげた……いや、先生に頼まれて授業で使う辞書を借りに行ったのかもしれない。まぁそんな事は私にとって大事じゃなくて、何かしらの本を持ってカウンターを訪ねた時、そこに図書委員長がいた事こそ、重要なのだ!
「あの、これお願いします。」
「……ああはい。」
カウンターで本を読んでいた図書委員長に話しかけると、体を微動だにせず彼は目線だけこちらに向けて上っ面な返事をした。
いかにも頭が良さそうな黒縁メガネの、奥の瞳と目が合う。だがしかし、私に気がついているのに、彼は一向にバーコードを読み取る素振りを見せなかった。
「あ、あれ? もしもーし?」
固まって動かない図書委員長の前で上下に手を振ったが、それでも彼は微動だにしない。
その時、突然変異後方からガタンと大きな音がして、ビクッと体が震え上がった。
(え、何? 何?)
とっさに振り向くと、隅の机にいるカップルかと思われる男女二人が、慌てた様子でペコペコと頭を下げているのが見えた。
(分かるなぁ、私もこの物音たてられない雰囲気私も苦手……)
自分のことじゃないのに共感して失敗談を思い出し、肩をすくめながら図書委員長の方に向き戻すと
「はっ!」
さっきの椅子の音で意識が戻ったのだろう、図書委員長はハッとした様子で立ち上がっていた。そして私はなぜだか、振り向いたのと同時に委員長の大きな手で両手首を掴まれた。
「な、な、な、なに!?」
思わずびっくりして声が出てしまい、急いでボリュームをおとす。
「静かに。ここ図書館ですよ。」
真顔のまま本気で注意してくる彼を前に私は困惑した。
(いやアンタのせいだろ!)
相手は先輩だし場所もあって、心の中でしかツッコミ出来ないのが凄く惜しい。
ていうかよく見ると、彼の背中から何か確実に出ている。背後からズモモモモと黒いものがでている!
「ちょっと話したいことがあるんですけど、今時間ありますか。ありますよね。」
「ヒィ……! 」
委員長が眉間にシワを寄せて顔を近づけてきたので、怖くなってまともに返事ができず、圧に押されてただひたすらにコクコクと頷いた。
「なら良かったです。」
委員長はご機嫌になられた様子で、私は図書委員だけが入れるはずの、やたら資料があるカウンター奥の部屋に通された。
「し、失礼しまーす……」
言われたとおり、机を挟んで向かい合っているパイプ椅子に腰を下ろしたが、何故自分はここにいるのだろうとキョロキョロとあたりを見回した。
(何だろう、なんか、良いな、ここ。)
光もあまり入らない部屋だが、落ち着いた雰囲気で、何より向かいに座る真面目な委員長に似合うなぁと思った。彼は生徒会の役割として図書委員長をしているはずなので、実際は生徒会員だ。いつもクラスのみんなとワイワイしているだけの私とは風格が全然違う。1つ年の差があるものの、かなり大人に見えた。
「何かすみません。花美さんに頼みたいことがあって急に引き止めてしまいました。」
「あ、私の名前……」
彼の、さっきまでの背徳的な脅しは何処かへ吹き飛んだみたいだ。理由は不明だけど。
「名前は……気にしないで下さい。たまたま聞いただけです。それより本題へ。」
彼は無駄のない動きでクイッとメガネを上げて、こんなお願いをしてきた。
「放課後だけで良いので、図書委員の仕事を引き受けてくれませんか。」
その言葉は体中をかけめぐって、やっと脳に到達した。
(自分の委員会もまともにやった試しがない私が仕事を任されている!?)
この状況に 違和感しかないのだが大丈夫なのだろうか。なんならカオス。
「ええと、まず何故私なんですかね……?」
頭にぽぽぽんとハテナマークが浮かび上がって、苦笑いしつつ首を傾げた。しかし彼は淡々と続けた。
「今年は部活に入っている図書委員ばかりで放課後の仕事が終わらないからですけど。」
いやいや、それ答えになってないから
と心の中の自分がツッコんだ。
「私が言ったのは、何故他の人ではなく私を選んだかと言う事で……」
そう言ってあれ? と気がついた。
(何だコレちょっと恥ずかしいぞ!?)
言っている途中で気がついたが、さっきのセリフは告白された人が言うやつだ。
私はどんな答えを期待しているのだろう。
顔が熱くなっていくのを感じて慌てて訂正する。
「えっと、あの、その、私って図書館もそんなに来ないのになんでかなーと……」
すると委員長は肘をつき、口の前に手をおいて「ふふふっ」と優しく笑った。
「それは、花美さんが頑張っているのを見ていたからです。今日も手伝いとしてここに来たんでしょう?」
不覚にもドキッとした。確かに手伝いとして来たけれどそれを褒められるなんて思ってもなかったから。
「それに日頃から見つけたゴミを拾ったり、細かいところまで見て行動してますよね?」
うわうわ、どこまで見られているんだろう。
自分のことを見てくれている人がいたと知って、何だか嬉しいような、くすぐったい気持ちになった。
「でも私は委員会など、そういう期限が決まっている仕事は苦手で……」
「大丈夫です。そこは僕を頼ってください。」
大人に見える委員長は、やっぱり大人の対応をしてくれた。
私は放課後いつも暇だし、頭のいいこの人なら勉強も教えてくれるかもしれない!
少しでも委員長の力になりたくて私は仕事を引き受けようと決心した。
「じゃあ私その仕事を……」
「っていうか、期限に間に合わないとかないから。僕がみっちり叩き込んでやるよ。」
「あ、あれ?」
委員長は私の決意表明をかき消して、ふふふと不気味に笑った。
(もしかしてヤバい人に捕まった!?)
血の気がサーッと引いていく。
「ちなみに放課後は毎日来てもらう。来なかったらどうなるかわかってるよな?」
委員長は死んだ目でそう問いかけてきた。
これが噂に聞くブラック企業か!?
あくまで手伝いだから成績にも載らない。
結論、良いことない。
「く、来れば殺されなくて済むんですよね」
人手が足りなくて困っているのは、この資料の山を見ればすぐに本当だとわかるのでしぶしぶ承諾した。そしてもう隠すことなく肩をおとしながら。
「よっしゃ引き受けてくれた……」
委員長が何やらぼそっと呟いたが、聞き逃してしまった。まさか、悪口言われたとかじゃないよね!?
図書館って割と苦手な方だったのに、毎日ここに通うようになったのは間違いなく図書委員長のせいだ(泣)
放課後の図書館って誰もいないからこそいいんですよね、こんなにイチャイチャされたら居づらくなるわ。