第8回 懐かしの再会
ぎーこぎーこぎー・・・・・
小刻みに聞こえていた音が急に聞こえなくなる。それに気づいた小山衣里が慌てて、
「ハルカ!手ぇ切るから!」
「ふぇー・・・・わぁっ・・・!」
間一髪のところで立花悠は大怪我を免れた。
手元には、文化祭で使うはずの看板を作るため、のこぎりが握られていた。
「寝てた〜?また?」
「だって課題が終わんないんだもん。ちょーっと赤点取ったくらいで、ゴリオのやついっぱい課題出してきてさー」
その提出日があと5日となった今日、それと同時に文化祭が待ち構えていた。
ちなみに、中間テストでの赤点であり、この学校では課題をやって再テストを受けないと、下手をすれば進級できないことがある。
なんでこんなことになったんだろ・・・
少しだけ考えてみて、ようやく自分が『31』という洋画のドラマにハマり、ずっとレンタルして見ていたことを思い出す。
「なんや。2号も課題かい」
いきなり頭上から声が降りかかってきた。見上げると、同じ課題を持っている立花悠の姿があった。
一瞬むっとしたが、とにかく平静を装う。
「一緒にしないでくれる?私はたまたまテストの日に調子が悪かっただけなんだから」
「俺かてあの日はたまたま頭が痛うて、それどころじゃなかったん」
「だーかーら、一緒にしないでよ!」
「ちゃうわ!お前かてマネしてんのとちゃうか!?」
「うるさい!!」
その声と共にばしーんとノートの角が頭に当たって、地味に痛みを感じた。
「赤点だったことに変わりはないんだから」
きっぱりと衣里に言い放たれ、2人はこれ以上何も言えなくなってしまった。
◇
結局、文化祭の準備をしている間中、ハルカは課題に追われることになった。
ゴリオに呼び出されて、1人準備に参加せずに延々と課題をやり続ける日々。
しかも、ユウが課題を早々に終わらせていることがまた気にくわない。
そして、高校2年生の1度しかない文化祭の苦労や楽しみを一切経験することなく、本番当日を迎えた。
「苦労や楽しみって・・・うちらのクラス、ただ学校の看板とか作っただけじゃん。それまでは大変だったけど、本番は1日中見て回れるし、別にクラスの結束力高まるようなことじゃないと思うけど・・・」
なにかあきれたように衣里は言う。それでもハルカはぶーぶーとぶーたれるしかなかった。
「ハルカちゃん、衣里ちゃん!」
「ん?どうしたの、亜美ちゃん」
亜美は手を前で組んで、言いにくそうに顔をしかめている。
ようやく喋りだしたときには、なんだかすごい時間がかかったように思えた。
「私・・・これから菅原君と一緒に回ってきていいかなぁ・・・」
「もっちろーん!行っといでよー!」
「後でなんかおごってよー」
口々にからかわれて、亜美は顔を真っ赤にしている。
しかし、その表情が一瞬曇ったように見えたのは気のせいだろうか。
◇
「そういえば、衣里はいいの?もりしーと一緒に回らなくても」
疑問に思ったことをハルカが口にすると、衣里は苦笑して手を振る。
「もりしーのクラス、本番結構忙しいんだって。だから、遊びに行くことしかできなくてさ」
「あーそっかぁ」
「それに、私もいなくなったら、ハルカが悲しむと思って」
「別に?」
「よーっす」
振り返ると、たこ焼きを食べながら歩いているユウと、高橋がいる。
彼らのおかげでハルカは衣里のチョップをくらわずに済んだ。
「あっ!たこ焼きだぁ」
「ええやろ〜。立花にはやらんけどな」
「ほしいなんて言ってないから!」
いつものようにこのままエンドレスの口ゲンカが始まると思って、仕方なく衣里が仲裁に入ろうとしたそのときだった。
「ユウ!」
どこかイントネーションの異なる女の子の声が聞こえてきた。
声のした方、私服姿の女の子2人組みがそこにいた。ボーイッシュな女の子と、おとなしそうなかわいい女の子だった。
しかし、名前を呼ばれたユウは、しばらく反応できずに硬直していた。
黙って2人を見て、あーとかうーとか言って声にならない声を発している。
「びっくりした・・・えっ、なんでここにおるんや?」
「サプライズでびっくりさせたろ思たんや。他にもマイケルとかおるんやけど、今トイレ行っててなー」
ボーイッシュな子がにこやかに答えて隣にいたおとなしそうな子を前に押しやる。
「ほら!何照れてんねん。久しぶりに恋人に再会したんやから!」
さすがにその言葉には驚いて、ハルカはユウを見る。彼は首に手を当てていて、その頬は少し赤い。
よくわかった。ユウには彼女がいたということが。