第4回 勝負の行方
勝負は一瞬だったが、その間は立花悠にとって長い時間に感じられた。
スタートした瞬間、頭1つ飛び出たのは間違いなく立花悠だった。
しばらくトップを走っていたが、真ん中辺りで高橋に抜かされて、その後ろから走ってきた2人の男子にも抜かされた。
「1組、2組、7組、5組、4組、8組の順でゴールしましたァ!!」
そのアナウンスがかかったとき、5組のテントでは落胆のため息が出た。
すぐに正確なタイムも出たが、ユウのタイムは予選をはるかに下回る結果になった。
◇
ハルカたちがリレーの召集のために集合場所に向かっているとき、視界の片隅にユウが入ってきた。
ただそれだけなら別に気にすることはないのだが、彼がいる場所というのが救護テントだったのが気になってしまう。
「ごめん・・・ちょっと先行ってて」
衣里と亜美に伝えてから、ハルカはそこに向かってみた。
「なんやねん」
ユウの開口一番がそれだった。なぜか不機嫌そうな顔をしている。
「なんやねんって・・・その、なんでここにいるんかなって思って」
しどろもどろに言うと、ちょうど包帯を巻き終えた後らしく、ユウが養護教諭にお礼を言ってぴょこんと立ち上がった。
「よかったやん。高橋がぶっちぎりやで」
「あんたはどうしたの?その怪我いつしたのよ」
「んー・・・ちょっと100の予選のときにヘマったっぽい」
足をぶらぶらとさせながら、ユウは答える。そして、苦笑しながらハルカを見てきた。
「ここ連れて来たん、高橋なんやで。ほんまあいつはすごいわー。完敗や」
それと同時に、目の前に高橋が現れた。
えっと驚いて何も言えずにいるハルカに対し、ユウはにこやかに会話していく。
しばらくして高橋がハルカを見てきた。
「立花さん、久しぶりだね。もしかして邪魔だった?」
「何言ってんの。変なこと言わないでよ」
「ちゃうからなー。誤解すんねん」
普段そんなふうに言わないユウが自分を気づかっていることに気づいて、ハルカはどうにもやるせない気持ちになった。
その後、高橋はすぐにテントに戻ると言って立ち去ってしまった。
「追わんでええの?」
「なんで追うの。いいんだよ。どうにもならないってことぐらいわかってんだから」
そう・・・それを聞いたのは半年くらい前。高橋には中学からつきあっている彼女がいるということを。
わかってたけど、やっぱり好きだったんだ。
急に暗くなって、ハルカはその場にしゃがみ込んでしまった。
今は顔を見られたくない。泣いてはないが、きっとひどい顔してる。
ユウは何も言わずに、ただたどただしくハルカの頭をぽんぽんと叩いただけだった。たぶん高橋に彼女がいたことをユウも知っていたんだろう。
「立花さー・・・どうにもならないけど、それでも誰かをずっと好きだったこととかある?」
「――そりゃあったでー・・・・・あんさぁ」
「なによー」
「お前、リレーの招集かかってんちゃう?」
「はっ!やばい!忘れてた!!」
慌てて立ち上がって集合場所まで向かおうとすると、
「立花!」
その声に驚いて振り返った。そこには仁王立ちしているユウの姿があった。
「ガンバレ!」
耳を疑いそうになったが、素直に受け止めることにした。ハルカはにっこりと笑って頷いた。
◇
「ハルカ遅い!どこ行ってたの!」
受付ぎりぎりの時間に滑り込んで、ハルカは所定の場所についた。すぐ前では衣里が怒っている。
「ごめんごめん。ちょっとトイレで立て込んじゃってさー」
誤解されそうな発言だが、すぐにリレーの入場が始まってそれ以上突っ込まれることはなかった。
そして、リレーが始まる。ハルカは8番走者だった。
2年5組の男子がテントで応援しているのが見える。その中に、ユウがいることに気づいた。
そういえば、100メートル走決勝で自分は誰を応援したんだっけ?
ハルカがそう考えようとしたとき、前の走者が走ってきたので考える余裕がなくなった。
とにかく走ることだけに集中したかったから―――
ちなみに、彼らが住んでいる所はたぶん愛知だと思います。
三河弁バリバリなので。じゃーん、とか。