最終回 近距離で
立花悠が大阪に戻るという話を衣里から聞いたのは、夏休みも終わりに差し掛かったときだった。
「ほんっと信じらんない!なんなのよー」
衣里は相当怒っている。ハルカはただ笑うしかなかった。
「もー・・・ハルカが怒んないから私が怒ってるんだからね」
「ありがと。衣里が怒ってくれるから私も怒らなくて済むのかも」
「私完璧にワルモンじゃん」
しょんぼりと衣里肩を落とす。
正直、衣里や他の友達の助けがなければあのときどれくらい落ちこんでしまったのかわからない。みんなには感謝している。
「――明日、会う約束してるんだ」
ハルカは静かに語った。衣里が驚いたような表情でこっちを見る。
「え?そうなの?」
「うん。一応はっきりさせておくつもり。向こうもなんかあったみたいだし」
そうだ。明日は今までの中途半端な想いをはっきりとさせるために会う約束をした。
それがどんな結果になったとしても、きっと後悔はしない。
◇
翌日の天気は、曇り時々晴れというものだった。
ハルカは約束している臨海広場のベンチへと急いだ。
すでにそこにはユウが座っていた。
「ごめん・・待たせちゃって」
「いや、俺がちょいはよ来ただけやから」
ユウは高校生のときと同じように笑顔で出迎えてくれる。ハルカはその隣に座った。
緊張する。こうして呼び出したはいいものの、いざ何を話せばいいのかわからなくなってしまう。
「ごめんな?なんやいろいろ迷惑かけてしもて」
「ううん・・・まぁ、もういいよ」
こういうとき迷惑なんてかかってないと言えばよかったのだろうか。
ハルカは様々なことを考えながら自分の言うべき言葉を考えた。
「あのね・・・こないだのお祭りのときのことなんだけど・・・・」
「・・・・・・・っ!」
そのとき、ユウが何かを言おうとしていることがわかった。
だけどすぐに口を閉ざしてしまう。ハルカはその態度にじれったさを感じてしまった。
「不器用・・・だよね」
思ったことを正直に述べると、ユウははにかんだように笑った。
「そうかもな。何度も追いかけようとは思ったんやで」
「そうなんだ」
そこまで言うと、また沈黙が訪れた。
だけど、この沈黙は苦ではない。むしろこんなに近くにユウを感じることができるのだから感謝しなくちゃいけないのかもしれない。
と、そのときだ。ベンチに置いていたハルカの右手に何かが当たった。
それがユウの左手だということに気づくのにそれほど時間はかからなかった。
「・・・・・・・・・・」
上から指をからめるようにして握られたユウの手はとても温かかった。
これが不器用なコンビの精一杯の愛情表現だった。
◇
それから、月日は流れた。
ハルカはカオルと一緒にショッピングをしていた。
「ハルカ、これこれ!絶対似合うと思うよ!」
そう言ってカオルは白いマフラーを手に取る。
「ほんとだ・・・かわいい!」
「今日はクリスマスイブだもんね。俺が買ってあげるよ」
「なんでアンタがいるんですか」
背後からユウの声が聞こえてきた。
「だって俺はハルカとクリスマス過ごそうってずいぶん前に約束してたんだもん。後から来たのはそっちだろ?」
いけしゃあしゃあとカオルは言ってのける。ユウは小さい体で怒りを露にしている。
「デートなんやから邪魔すんな!」
ハルカはその様子を笑って見ていた。
「・・・ったくなんなんだよ。心の狭い彼氏だなー・・・」
カオルがくるりとこっちを向いた。
「じゃあ、そろそろ仕事があるから行くよ。またね、ハルカ」
「はい!バイバイ」
ようやく2人きりになると、急に静かに感じてしまった。
そんな沈黙を破るかのように、ユウはハルカに手を差し伸べてきた。
「・・・ははっ」
「なに笑っとんねん・・・」
「ううん。なんでもない」
ハルカは笑いながら、ユウの手を握った。
夏休みに1度ユウは大阪に帰っていったが、また愛知に戻ってきてハルカに告白してくれた。
不器用に支離滅裂な言葉だったけれど、ハルカにはしっかりと伝わった。
遠距離でも辛くない。
離れていても、こうして身近に感じることができるから。
誰もいない公園のベンチで2人並んで座っていたとき、こっそりキスされそうになったときも、ハルカは笑えてきてしまった。
「たえろ!こういうときくらい!」
「だ・・だって照れるんだもん」
「俺かて照れるわ」
2人の唇がゆっくりと重なった。至近距離でお互いを確かめ合った。
いつも近くにいた。そして、遠くにいた。
素直になれなくて、時間がかかってしまった。だけど、2人はまだ遅くない。
「なんかここまで来んのにえらい多くの人に迷惑かけたなぁ・・・」
「ほんとだよね・・・・」
お互いに見合って、笑い合った。
今度は恩返しの意味もかねて、2人で一緒にいよう。
それが、2人の愛の形だから――――・・・・・・
とりあえず終わりましたが、いくつか ん? って思うところがあると思います。
そういうのはエピローグで書く予定です。
だから、もう少しだけ彼らの物語にお付き合いください。