第32回 振り返ると、
大学の最初のテスト週間が終わると、大学生は長い夏休みに入る。
8月の上旬、ハルカたちの地元では大きな祭りが行われることになっていた。
「ハルカ、おっそーい!」
びしっと浴衣を着こなしている衣里が開口一番に言う。
対するハルカは慣れない浴衣に歩くのももどかしかった。
「ごめーん・・・こんなに歩きにくいなんて思わなくって」
改めて周囲を見渡し、懐かしい顔ぶれを見た。
「亜美ちゃん、菅原君、久しぶり!」
「うん!ハルカちゃん元気だったー?」
「もっちろん」
久しぶりに会った亜美としばらく話した後、ハルカはあることに気づいた。
「あれ・・?そういえばもりしーは来ないの?」
「うん・・・なんか仕事でちょっと遅れるってさ」
心底残念そうに衣里が答える。このカップルはいつまでたってもラブラブだ。
そのとき、空に花火が咲いた。そして、一拍遅れてドンッと響く。
「行こ。今日は楽しまなくっちゃ」
衣里の一声で、4人は川沿いの道を歩き出した。
◇
辺りは、多くの屋台が連なっていた。
人も多く、屋台の1つ1つを見ることはできなかったが、ハルカたちはチョコバナナを買って食べた。
「菅原君、大学生活はどう?」
4人は人通りを避けて、誰もいない神社の階段に座り込んだ。
「楽しいよ。結構気楽だし。そっちは?」
「――うん。楽しいよ」
もちろん嘘ではない。だけど、どうしても大阪に行ったときのことを思い出してしまい、ハルカは暗くなってしまう。
自分のいないところで、あんなに楽しそうにしているユウ。
だめだ。もう思い出さないって決めたのに。
「まぁ、これからもっと楽しくなるよね。亜美ちゃんのナース姿見られるかもしんないんだから」
そうからかってみると、一見不良顔をしている菅原がすごく照れくさそうにした。そのギャップが見ていて面白い。
「もぉーハルカちゃん・・・そんなこと言わないでよー!」
亜美も真っ赤になっている。
そんな2人の様子を見て、ハルカは純粋に羨ましいと思った。
去年自分もつきあいだした頃は、きっとこんな関係が続いていくんだと疑っていなかった。
「あれっ・・・もりしーの声が聞こえた」
衣里の言葉で、ハルカははっとして我に返る。
驚いて彼女を見ると、衣里はすくっと立ち上がってどこかに向かっていった。
衣里の向かった所、そこには確かにもりしーがいたが・・・他にもいた。
◇
「他人の事情に首を突っ込む主義じゃないけど、そんな中途半端な態度でいてもらいたくないな」
珍しく怒気を含んだもりしーの声は、ユウにとって痛いものになった。
夏休みになって祭りに来ないかともりしーに誘われて愛知に戻ってきたけれど、やっぱり会うことができずにこうして誰もいない神社にこもっていた。
「そういう態度は、立花さんに対しても元カノさんに対しても失礼だよ」
「・・・・・・知っとんのか」
「まあね。ウチの母親の知り合いがたまたまその現場を見てた」
淡々ともりしーは答える。
本当にもりしーには敵わないと思う。ユウは頭をぐしゃぐしゃとさせながらその場にしゃがみこんだ。
わからない。自分のとっている行動が正しいのか正しくないのかなんて。
「立花は誰が好きなんだよ」
「俺は――俺の好きな人は―――・・・」
迷っているわけではない。だけど、もし口にしてしまったら絶対自分の気持ちに歯止めがつかなくなってしまう。
だから、こう答えた。
「立花だって答えさせたいんやろ?」
「・・・・・・・・」
「もう俺たちは終わったんや。今さら戻る気にもならんし、それにもう好きじゃない」
そこまで言って、ユウは固まってしまった。
目の前にはいつのまにいたのか、衣里の姿があって・・・・・・その後ろにハルカがいたからだ――
◇
好きじゃない・・・
知ってる。そんなこと言われなくてもわかってる。
自分で自分に言い聞かせながら、ハルカは走り続けていた。あの場にいるのが辛すぎたから・・・・
もうやだ、疲れた・・・
結構な距離を浴衣姿で走ってきたらしい。地元でも全然知らない所まで来てしまっていた。
「あれ・・・ここどこ・・?」
居場所がわからなくなって、ハルカは意味もなく辺りを彷徨う。
ただでさえ悲しいのに、さらに心細くなってしまった。
と、そのときだ。
「えっ・・・・・?」
ハルカの腕を誰かが掴んだ。
すぐに1度最終回にするつもりでいます。
たぶんとっても消化不良で終わるので
番外編を書きたいと思っています。