第30回 再会
高速道路を降り、篠原真由美の運転する車はO大学の駐車場へとたどり着いた。
「まゆちゃんはどうして今日大阪に行こうと思ったの?」
車中で1番気になっていたことをハルカは口にした。
「ばーちゃんがギックリ腰になったって聞いたからね。戻ってきたの」
へーっと思った瞬間だった。なぜかハルカは強引に車から下ろされてしまった。
「へっ?へ?」
「ウチはばーちゃんち行くからここにおってな?3時頃には迎えに行くから」
そう言うと、真由美は車を走らせてしまった。
1人残されたハルカは仕方なく大学構内に入ってみることにした。
今の季節は桜も散ってしまい、すでに木々も新緑に染まり始めている。ハルカはその下を歩いた。
時々、学生とすれ違う。その中にひょっとしたらユウがいるような気がして、なんとなく緊張してしまった。
会えるわけなんてないのに。
もし会ったとしてもこんな所にいる時点で、ストーカーだと思われてしまう。
「ストーカーじゃん!」
思わず声に出てしまった。
そうだ・・・自分は何をしているのだろう。前の彼氏に会いたいために大阪まで来てしまうなんて・・・・・・
そのとき、多くの学生がハルカを通り過ぎていった。
ハルカを無視して、時は流れていく。
◇
それは、高校時代、衣里と亜美に初めてユウとつきあっていることを話した翌日のことだった。
突然ユウから別れようと言われた。
「・・・なんで・・・・?」
情けなく声が震えてしまった。
「やっぱ俺お前のこと、彼女としては思えへんわ。ごめんな?」
決してハルカの目は見ずに、だけどまるで一緒に帰れないと言うようなノリで言われた。
「ごめんって・・・・・なんで急にそんなこと言うの・・・?」
「だから、彼女としては思えんねや。これは立花が悪いんじゃなくて、俺の問題や。ごめん」
ちょうど一緒に帰っていたときだった。
ハルカはそのまま立ち止まってしまったが、ユウはどんどん歩き続けていく。ハルカを置いていく。
追いかけることができなかった。どんどん離れていく背中をただ見送ることしかできなかった。
だから、叫んだ。
「ばかぁっ!!!」
こんなのってないよ。こんなのひどすぎるよ。
◇
結局それ以上の理由を聞くことなく、高校生活は過ぎていった。
衣里も最初は心配していたが、理不尽なユウの態度にだんだん怒れてきたらしく、すぐに一切の口をきかなくなった。
もりしーはそれとなく理由を訊こうとしたのだが、それでもユウは何も言わなかったらしい。
その後、ユウはC大学を受けずに、大阪の大学を受けて合格した。
まともに話さなくなってから、そろそろ1年がたとうとしている。
むなしくなってきた・・・・
ハルカは食堂で午後3時まで時間をつぶした。真由美に電話すると、彼女はすぐに来てくれた。
「何しとん!?」
「何って・・・食事?」
「アホ!何しにここに来た言うてるんや!」
真由美の怒声は騒がしい食堂にも響き渡った。
「ユウに会うためちゃうんかい!」
そう。そのためにここに来たんだ。
だけど冷静になって考えてみて、これが相手にとっては迷惑な行動以外の何物でもないことに気づいた。
「――そうなんだけど・・・もう会えないよ・・・・ふられちゃったもん・・」
また真由美に何か言われることを覚悟していたが、彼女は何も言わずにハルカを立たせた。
「ごめんな?ハルカちゃんの気持ちなんも考えとらんかった・・・今日は帰ろか」
ハルカは黙ってこくんと頷いた。
真由美の心遣いが嬉しかった。今はただそれに甘えていたい。
◇
だけど、すぐにそんな状況ではなくなってしまった。
2人が帰ろうとしたときに、ちょうど入ってきた何人かの学生とすれ違った。
「そう言っといて、ほんまはデートやろー?小春ちゃん、えらいかわいいもんなぁ」
「ちゃうって。日曜はバイトや言うてるやろ?」
「立花の言うことなんてあてにならんわ」
その声、言葉に反応して、ハルカは振り返った。
そこには4人の男女がいて、その中で2組のカップルに分かれているように見えた。
その1組をハルカは見たことがあった。
何気なくこっちに目を向けた男子とハルカは目が合った。
お互いに時間が止まった。
これが、立花悠と、立花悠が再会した瞬間だった。