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第29回 未練

 大学生になったらやりたいことがハルカにはあった。それはサークルに入ることだ。

 数あるサークルの中からハルカと衣里がそれを決めたのは、

「バドミントンサークルに入らない?」

 という広瀬の一言だった。


 このサークルは部活のように本格的ではないが、男女共に楽しめるというメリットがある。

 案外こういうところで出会いを求めたりするのだろう。割と人数は多かった。

「あっ、広瀬先生!今日は早いんですね」

「ハルカちゃーん・・・先生はやめようよ。もう俺カテキョじゃないんだから」

「先生のおかげでこの大学に合格できたんだから、敬意を持ってそう呼ばせていただきます!」


 すでに何度目かになるこのセリフで、広瀬はだんだんあきらめてきているらしい。

「ハルカちゃんさ、今度の土曜の飲み会来るよね?」

「もちろん行きますよ!先生も来ますよね?」

「行く行く。なんか他のサークルの人たちも来るんだって」

 それは初耳で、ハルカはへーっと思った。


            ◇


 広瀬の言うとおり、土曜日の飲み会には別のサークルの人たちも来ていた。

「どーも!野球愛好会でーす!」

 まるで合コンのようなノリで彼らは現れた。


 ハルカはその中で、とある女の子が気になってしまった。別にやましい意味ではなく、彼女が関西弁を喋っていたからだ。

「どーも!一緒に喋ってもええですか?」

「どうぞどうぞ!」

 さっきから見ていると、彼女は知らない人でもとにかく話しかけるらしい。ハルカの所にもやって来た。


「私、経済学部1年の篠原真由美っていいます。よろしくね!」

「うん!私は文学部1年、立花(はるか)っていいます」

 自然な流れで自己紹介をしたつもりなのだが、急にえっと驚かれてしまった。

「立花って立つ花って書く?あとハルカってこういう字?」

 真由美は空中に『悠』という字を書く。

 ハルカが頷くと、真由美は嬉しそうに顔をほころばせた。

「もしかして・・・ユウって知っとる?立花(ゆう)


 その名前を聞いて、ハルカは一瞬固まってしまった。

 なぜ今この名前が出てくるのだろうか。彼女はユウのことを知っているのだろうか。

「私、いとこやからたまに()うてるけど、おんなじ漢字書く彼女ができたって去年の夏休みに白状させたんよー!それってハルカちゃんのことちゃう?」


 去年の夏休み・・・確かにつきあっていた。告白されてあの海でキスをした。だけど――・・・・

「うん。あのときはつきあってたかな」

「やっぱり!なんややっぱりそうなんや!最近会うてへんねやけど、元気にしとる?」

「私も会ってないんだ・・・・・もうつきあってないし」

 軽く言い放つと、真由美はきょとんとした表情になる。


「別れたん?だってユウが大学に受かったとき、私おめでとうって電話したけど、そんとき彼女おるみたいなこと言うてたけどなー」

「えっ・・・・・」

 誰のことだろう・・・ハルカは一瞬考えたが、すぐに自分ではないとわかって意気消沈する。


「ごめん・・・言われたないこと言うてしもた?」

 心配そうに尋ねる真由美に、ハルカは手を振って笑ってみせる。

「そんなんじゃないよ。それより・・・立花、元気にしてる?」

「元気は元気やねんけどー・・・・・なんかあったみたいでな?電話しててもイマイチ盛り上がらへんかったん」


 なんかあった・・・だけど、ハルカにはそれを心配する権利はないと思った。

 だってあのとき、ハルカとユウは別れたんだから―――・・・


            ◇


『あっハルカちゃーん?』

 その電話の声はとても陽気で、一瞬ハルカは誰だかわからなかった。

『ウチウチ。こないだの飲み会で喋った篠原真由美!』

「ああ、真由美ちゃんか。どうしたの?」

 ケータイの番号とアドレスを交換したことを思い出して、時計を見る。まだ朝の6時前だ。


『突然やけど、ハルカちゃん今日授業サボっても平気?』

「んー・・そうだねぇ、必修ないから平気だと思う」

 きょとんとして答える。

『じゃぁ、今から一緒に大阪行かへん?ウチの車で送ってくからさー』

「今から!?」


 さすがに驚いて声を張り上げてしまう。それよりも、大阪に行くという行動がなんだか嫌だった。

『うん。ちょっと見てみたくない?今のユウ』

 真由美はやっぱり明るい声でそう提案する。彼女はきっと思い立ったら即行動タイプなんだろう。


 そして、そんな彼女の性格にハルカも感化された。

「行きたい・・・私も連れてって。大阪に」

『ほな、けってーい!』


 我ながら未練たらたらだと思った。もう別れたのに・・・・・・

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