第2回 スピード交際
「体育祭〜?」
その単語が出たのは、5月の半ば頃になってからだった。ハルカたちの通う高校では、毎年6月にそれが行われるのだ。
「でもウチの体育祭って走る競技しかなくて毎年盛り上がらないって噂だよね」
「まあね。たぶん1組の高橋君がぶっちぎりだろうね、100メートル走は」
その名前が出るとやっぱり緊張してしまう。それがわかってて、ハルカの友達、宮崎衣里はからかってくるのだろう。
「ハルカ、まだ好きなんだ?高橋充のこと」
「まだって何さ。私は一途な女なんです」
「いいじゃーん。この際、立花1号に乗り換えちゃうとか」
そんなことを考えたこともないハルカは、初めて想像してみて全身に虫唾が走るのを感じた。
ユウが一部の女子に人気があることは知っているが、その一部にハルカは入っていないのだ。
と、そのとき、急に目の前に自転車に乗った2人組が飛び出してきて、ハルカと衣里は危うく正面衝突しそうになった。
とっさに動くことができずに立ち止まった女子2人と、急ブレーキで自転車から放り投げ出された男子2人の目がそのとき合う。
「なんだ・・・2号かいな」
「なによその言い方。危うくこっちはひかれかけたんだから」
「あれっ?衣里ちゃんだ。ごめん・・・大丈夫だった?」
「もりしー!ううん。大丈夫だよ。それよりこっちこそごめんね?」
自転車に乗っていたのは、立花悠と6組の森下和樹、通称もりしーだった。
「急に飛び出してこないでよ!危ないじゃん!」
「飛び出すもなにも、そっちが赤信号なんにのろのろ歩いてんのが悪いやろ!?」
「なにさー!いること気づいてたんなら、もっとゆっくり走ってよね!」
「気づいてへん!ぶつかりそうになる直前に全てを悟った!」
「ほんとに大丈夫?無理しなくていいんだよ?」
「大丈夫だって。もりしーは優しいね」
「・・・・・それは相手が衣里ちゃんだからだよ」
「えっ・・・!?」
「ずっと片想いしてきたから」
「なっ・・・そんな・・もっと早く言ってよ!私だってずっと好きだったんだからっ」
さすがにおやっ?と思って、ハルカとユウが振り返ると、なぜかそこには1組のカップルが出来上がっていて、ひしっと抱き合っていた。
立花コンビが口を半開きにして見ていると、2人の視線に気づいたもりしーがにっこりと笑ってこっちを見てきた。
「俺たちつきあうことにしたから」
「展開早っ!」
「ありえん!どないしたらこうなるんや!」
さすがにこの立花コンビが常識人に思えるほど、2人はスピード交際だった。
◇
朝のホームルームにて、ハルカや衣里と仲のいい友達、小山亜美にそのことを話すと、
「えー!すごーい!よかったね、衣里ちゃん」
拍子抜けするくらい和やかな言葉が返ってきた。
衣里がでへへと照れる中、ハルカはうーんと頭を抱えてしまった。
それにしても、衣里が誰かとつきあうことになるなんて思いもしなかった。
見た目はすごく綺麗なのだが、衣里は勇気を出して告白してきた少年たちをあっさりとふることが多かったのだ。
好きな人がいるとは言っていたが、それがまさか1年生のときに同じクラスだったもりしーだったなんて・・・
「さて!私の恋も叶ったことだし、今度は2人の恋を応援しようかな」
にこにこと笑顔で衣里に言われると、ハルカも亜美も恥ずかしくなってしまった。
「わっ私・・・好きな人なんていないよ」
「またまたー・・・亜美ちゃんだったらどんな男も惚れるね」
そう言われて照れる様子がまたかわいらしい。ハルカにはない仕草だった。
こんな話をしていると、ハルカも恋をしたくなってきた。いや、してるにはしてるのだが、ただ単純に高橋のことをかっこいいと思っているだけなのだ。
「ハルカは・・・高橋君なんだよね」
「や、好きかどうかまだわかんないけど」
「まぁ今度の体育祭見たらまた評価変わるかもよ」
◇
その衣里の言葉の後、体育祭のそれぞれの種目が決まった。
ハルカと亜美はリレー。衣里はリレーと200メートル走。そして、ユウは高橋と同じ100メートル走だった。
ちなみに、ユウとハルカをカタカナにしているのは
漢字で書いたらややこしいからです。
ちょっと微妙ですけど、気にしないで下さい。