第28回 新たな生活
少し時間が空きましたが、いよいよ大学編です。
よろしければ暇なときにでも読んでください。
時は流れる。
季節は巡り、桜の舞い散る春・・・・・・立花悠はある人物を待っていた。
「ハルカ!」
息を切らしながら現れたのは、桜井薫だった。
「大学生活にはもう慣れた?」
「少しずつ・・・でも、大学の授業って90分だから長く感じちゃいますけど」
C大学に入学してから2週間。ハルカは大学生になっていた。
思えば3年生のとき、今までしたことがないほど勉強をした。そのかいあってか、なんとかC大学に合格。無事にここまで来ることができた。
ちなみに、同じ大学を希望していた宮崎衣里も合格し、同じキャンパスライフを過ごしている。
ハルカはカオルを食堂へと案内する。
「日本へはどのくらいいる予定ですか?」
「今回はあさってで帰んなきゃなんないんだけど、冬に1ヶ月くらい休みを取ろうと思ってる」
食堂で積み重ねられたトレーを取りながら、カオルが答える。
「そのときは一緒に過ごそう?クリスマスとか」
カオルが真剣に言っていることがわかっているので、ハルカは曖昧にしか答えることができなかった。
カオルは優しいし、かっこいいし、はっきり言って非の打ちどころのない青年だ。
今だってこうして一緒にごはんを食べているが、周囲の視線が明らかにカオルに向いていることがわかる。
だけど・・・ハルカはたぶんカオルの気持ちに応えることはできないだろう。
「ハルカ?」
高校生のときの嫌なことを思い出してしまい、ハルカは慌ててそれを振り払った。
これはもう思い出さないって決めたんだから・・・・・
◇
「ハルカ!こっち」
3限の教室。人がいっぱいいる中、手を上げて手招きをしている人を発見した。
「衣里。席取っといてくれたんだ」
「だって取っとかないと座れなくなっちゃうじゃん」
いつもは衣里と一緒にこの教室で食べるのだが、今日はハルカがカオルと一緒に食べたため、衣里が席を取っておいてくれたのだ。
「カオルさん、元気だった?」
「うん。衣里によろしくって言ってたよ」
「懐かしいなぁ〜修学旅行のときのこと思い出すなー」
衣里はしみじみと昔を思い出す。
「みんな元気かな?亜美ちゃんは慣れないって言ってたけど、器用だからきっと上手くやってるだろうね」
亜美も無事に看護学校に合格して、今は夢に向かって一歩ずつ前進している。
もりしーは有名自動車会社に就職し、日々稼いでいるらしい。
菅原はこっちの大学に合格して、週末に亜美とデートしているそうだ。
そして―――あの人は、
そのとき、チャイムの音が鳴り、授業の開始が知らされた。
「明日、カオルさんと一緒に映画見に行くんだ。いいでしょ〜」
「べっつにー。でもよかったじゃん。ちょっと安心した」
「安心・・・?」
「ほら、いろいろあったけど、やっぱりハルカには幸せになってほしいからさ」
そこまで言って、衣里は急にしまったというような顔をした。
「ごっごめん・・・こんなこと言っちゃって」
「いいって。もうあのときのことなんか全然忘れてたんだから」
そうだ。忘れなきゃだめだ。
だけど、ふとした瞬間に思い出してしまうことを否定することはできない。
ハルカにとってやっぱり大事な想いだったから、それをなかったことにすることなんてできなかった。
◇
翌日、ハルカはカオルと一緒に映画を見に行った。
見た映画は大好きなシリーズ『31』の映画バージョンだ。
「ハルカ、よっぽどこれが好きなんだね。鍵のキーホルダーもこれだし」
「そうなんです・・・・・これは大事なものなんです」
答えになっていない返事をして、ハルカは無意識に両手をぎゅっと握り締める。
と、そのとき、視界の片隅に見知った人の後姿を見たような気がした。
ハルカは思わず追いかけてしまった。
「たっ・・・・・!」
声をかけようとした瞬間、その人の横顔が見えて、違う人だということがわかった。
「彼氏だと思ったの?」
ハルカを追いかけてきたカオルが後ろでそう呟いた。
「・・・・・・・・・・」
否定することができない。だって実際そう思ったんだから。
それは、カオルに対してすごく申し訳ないことのように思えた。
「忘れなきゃだめだってことわかってるんですけど・・・もうちょっとだけ時間をください」
弱気なハルカに対し、カオルは静かにハルカの頭に手を置いてぽんぽんとなでた。
「俺は忘れろって言ってるわけじゃないよ。ただ、ハルカにとって居心地のいい男になれればいいと思ってる」
「なんで・・なんでそんなに優しいんですか・・・?」
絶対に応えられないのに。カオルだってそれがわかっているはずなのに。
それでも、そんな優しさがハルカには嬉しくて、辛かった。
何があったか、はそのうちわかると思います。