第26回 両想い
あの立花悠が自分のことを好き――
それを考えるだけで、ハルカはどきどきしていた。
だって相手は結構モテる。同じクラスの女子でもユウのことをいいなと思っている人は確かにいる。
そして、今実際にビーチのギャルから逆ナンされている。
「ほんっとかわいいねー」
「やっあの、友達待ってるんで」
そのかわいらしい童顔のせいで、どうやら高校生に見られていないらしい。
ユウもユウで顔を赤くしながら照れているので、ハルカはむかっとした。
「ねぇ、1人?」
パラソルの下で1人座っていたハルカは知らない人の声に驚いて見上げる。そこには知らない男がいた。
「もしよかったらこれから一緒に何か食べない?」
実に典型的な誘い文句で、逆にハルカは引いてしまった。
しかし、その男にぐいっと腕を掴まれたときと、ユウがその男の腕を引っ張るのはほとんど同時だった。
「何か用ですか?」
腕を掴まれた男は乱暴にユウの腕を振り払って、一言。
「ちっ。家族連れか」
「ちゃうわー!!」
どうやら弟と勘違いされたらしくて、ユウは両手を振り上げて憤怒する。
「弟のユウ君、助かったよ。ありがとう」
「弟は今反抗期なんです。話しかけんといてください」
つーんといじけてそのままユウはそっぽを向いてしまった。
ハルカたちは背中越しに座り込んだ。
水着だとなんだか照れくさい。それに、さっきのこともあって余計に恥ずかしくなる。
そのとき、思った。ハルカが返事をすればもしかしたらつきあえるかもしれないということに。
思わず振り返ると、ユウも同時に振り返ってきた。
互いにいきなり至近距離で見つめ合う形になってしまったので、慌てて目をそらしてごまかす。
「ごっごめ・・・なんか用だった?」
「や、なんもない。気にすんな」
不器用ゆえに今一歩踏み出せなかった。
◇
その日の夜、浜辺で花火をやることにした。近くのコンビニで買ってきた手持ち花火だ。
「ハルカー!花火しよう!」
「うんっ!」
すでに花火を取り囲んでいる衣里、亜美、菅原、もりしーのもとへ行ったが、すぐにユウがいないことに気づいた。
「ねぇ・・・立花は?」
「海の家に忘れ物したんだって」
振り返ったが、海の家からユウが出てくる様子はない。
「でももう5分くらい前だからちょっと遅いね」
さすがのもりしーも怪訝そうにしている。
「私、ちょっと呼んでくるよ。先に花火やってて」
そう言ってハルカは駆け出していった。
◇
海の家には静かだった。ちょうどジョージさんも買い出しに出かけているはずだ。
「立花ー・・・・・」
控えめに呼んでみたが、ユウからの返事はなかった。ここにいないのかもしれない。
あきらめて戻ろうとすると、微かな音が聞こえてきた。
すー・・・・
それは寝息だった。
よく見てみると、ここからは死角になって見えないイスに座って、ユウが机に突っ伏した状態で寝ているのだ。
「おーい」
呼びかけても返事をしない。今日はよっぽど疲れたらしい。
それもそうだとハルカは思う。
そして、その寝顔をまじまじと見つめた。まつ毛が長い。
「ユウ」
それは声にならない声だったが、なぜかそのときユウの目がぱちっと開いた。
驚く間もなかった。すぐに目が合ったが、今度は逃げなかった。
相手の真剣な眼差しを受けとめた。
あとは、もう、自然な流れで。
2人は唇を重ねた。
◇
「そんな固まらんでも・・・」
「だ、だって」
キスをした後、抱き寄せられたハルカの体はがちごちに固まっていた。
「ほな、みんなのとこ行く?」
「ま、待って!」
ハルカは思わずユウの腕を掴んだ。
「あと1分だけ一緒にいたい・・・・・」
「俺は彼女として一緒にいてほしいのですが」
そのときのユウの顔は、今まで見たこともないくらい真剣そのものだった。
「はい―――」
触れ合った2つの手が熱かった。
ようやく2人は素直になることができた・・・・・・
ここまで長かったです……が、
………