第25回 私のこと好きなの?
青い空、雲1つない快晴。なんといっても海日和。
そんな日に、バスに乗った6人の若者たち。
2組のカップルと、1組のケンカ中のコンビ。
「何があったの?」
今日久しぶりに合流した菅原が、その重たい空気を醸し出している立花コンビのケンカの原因を尋ねる。
「なんかね、こないだ修学旅行に行ったときに知り合った男の人とトラブルがあったみたいなの」
遠慮がちに亜美は答える。
◇
事の発端は、カオルが内緒で日本に来たあの日にある。
偶然図書室で、カオルがハルカにキスをしようとしたところを部屋に入ってきたユウに見られてしまったのだ。
その後、
「なんや・・・お邪魔したみたいやな」
意外にもあっさりと図書室を出て行こうとするので、ハルカは慌てて呼び止めた。
「・・・立花!」
「ほな、さいなら」
結局その後うまく話すことができず、そうしていつものようにケンカになってしまった。
◇
「・・・・・っていうか、次に会うときにはもうつきあってると思ってた」
「2人とも器用じゃないからね。素直になれないんだよ」
菅原の率直な意見に、もりしーが的確に答える。
いくらなんでも不器用すぎだと誰もが同時に思った。
6人のそれぞれの思惑を乗せて、バスは海へと向かっていく。
しかし、到着したときに立花コンビ以外の4人は新たな変化を実感することになる。
バスから降りようとしたとき、ハルカとユウが同時に降りようとしたが、狭い通路を2人で通れるわけがなかった。
「ええよ。先行けや」
「あ・・・うん」
たったこれだけの会話だったが、2人が仲直りしたいと思っていることが現れていた。
◇
「「海だー!!」」
「待て!」
真っ先に駆け出そうとしたハルカとユウを呼び止めたのは衣里だった。
「遊びに来たわけじゃないんだから。しっかり働いてもらうよ」
「「ハイ!」」
潔く返事をしたつもりでいたが、海の家のバイトはとんでもなく忙しかった。
ハルカは店の中で、注文を取ったり、料理を運んだりしたが、天気も良かったせいか多くの観光客が訪れ、店はとても繁盛していた。
目の回るような忙しさとはこういうことを言うのだろう。
しかも、ハルカは多くの失敗をやってしまった。
それはガチャーンという豪快な音だった。
「ハルカ、大丈夫?」
お客さんが食べ終わった皿を運んでいるとき、手を滑らせて落としてしまったのだ。
ハルカの手からは血が滴り落ちる。
「手切っちゃったね。裏に水道があるからそこで洗ってくるといいよ」
海の家の主人、通称ジョージさんが心配そうに尋ねてくる。
「ごっごめんなさい・・・お皿割っちゃって・・・」
「大丈夫大丈夫。それより結構深く切ったみたいだから、バンソーコー持っていくといいよ」
なにやってんだろう・・・
ハルカは今日の出来事を思い出してため息をつく。
注文を間違えたり、持っていく場所を間違えたり、挙句の果てには皿を割ってしまった。
切った人差し指を水道水で流しながら、その痛みを感じてさらに暗い気持ちになった。
思えば、最近の自分は本当に何をやっているのかわからない。
勉強はできるようになってきたが、ユウの「宿題」はどうなったんだろうか。
素直になれなくて・・・・・
「なに泣いとんねん」
気がつくと泣いていたらしく、ハルカが振り返ると涙でにじんだユウの姿が見えた。
「だって・・・私・・・・・バカみたい、だし」
必死で涙を拭う。もう隠すことはできないが。
「アホか。貸してみ」
そう言ってハルカからバンソーコーを取り上げ、持ってきたガーゼで傷口の周りの水気を拭いて貼ってくれた。
たったそれだけのことなのに、ハルカはどきどきしてしまった。
「こんなときやけど、1コ訊きたいことあんねん」
「なによ」
「・・・あの韓国男とつきおうてんの?」
カオルのことだろう。ハルカはそれに気づいて小さく首を振る。
「つきあってない。そういう対象として見てないよ」
「へー・・そうなんや。へー」
そのままユウは店に戻ってしまおうとするので、ハルカは思わずずっと気になっていたことを口にしてしまった。
「私のこと好きなの!?」
言った後、ものすごく後悔したが、ユウは振り返ってしかめっ面をする。
「気づくの遅い」
このとき、何かがハルカの中で変わった。