第24回 一歩進んで二歩下がる
なんとも微妙な題名ですいません…
模試の結果が返ってきて、ようやくハルカが日頃の勉強の成果が出ていると実感できたのは、夏休み前のことだった。
「ええっ!?C判定!?」
今までずっとE判定だったのに、ここへ来て初めて成績が上がった。
「なんかいつも広瀬先生にしつこく訊いてるし、最近苦手だった国語とかもできるようになってきて・・・・・」
困ったように言うと、亜美は純粋に喜んでくれたが、衣里はやばいやばいという表情になっていく。
「やばい・・・ハルカは私よりバカだと思ってたのに」
「失礼だなー衣里ちゃん。私はやればできる子なんだから」
けなされても今なら受けとめられる。
「まぁこれならハルカも行けるよね」
「まあね。今なら東大にも行ける気がするよ」
「違う。私の知り合いが海の家を開いてるんだけど、今年1泊2日でどうかなーって思って」
衣里の提案はこうだった。
旅行のことなんて全く考えていなかったハルカは急にモチベーションがぐっっと上がるのを感じた。
「行きたい!行く!」
思わず叫ぶと、衣里はにっと笑って頷いた。
「はい!じゃぁ決定ー!他に私と亜美ちゃんともりしーと菅原君と立花君が来るからね」
「へー・・・菅原君帰ってくるんだ!これで全員集合だね」
衣里としてはハルカが立花の2文字に反応してくれることを期待していたのだろうが、それよりも6人全員そろうことが嬉しくて気がつかなかった。
それに、ハルカは――・・・
◇
その電話がかかってきたのは、その日の夕方のことだった。
「もしもし」
知らない電話番号だったのでハルカは出ることに躊躇したが、頻繁にかかってくるために仕方なく出ることにした。
『やっと繋がった。久しぶり、ハルカちゃん』
「も・・もしかしてカオルさん?」
韓国に修学旅行に行ったときに出会った日本人のモデル、桜井薫の声だった。
『そう。覚えててくれたんだね』
「もちろんです。元気にしてましたか?」
「相変わらずだよ。スオンさんにはいろいろ言われるけど、楽しくやってる。それより聞いてよ。俺、今度日本に行くことになったんだ」
話によると、日本のとある雑誌に「海外で活躍する日本人」という特集があり、それにカオルが出ることになったようだ。
『まだ日程は決まってないけど、8月の上旬で行く予定だから、よかったら案内してくれないかな?』
「いいですよー!いつでも言ってください」
そう約束して、ハルカは電話を切った。
この後、何が起こるとも知らないで――・・・
◇
「ジャッジャーン!呼ばれなくても登場ー!」
驚いて振り返ると、なぜかカオルがそこにいたのだ。
「カ、カオルさん!?どうしてここに・・!?」
「驚いた?ちょっとおどかしてみようかと思って、嘘ついちゃった」
カオルはその整った顔立ちで舌をべっと出してみせる。あいかわらずかわいい男だ。
そのまま2人は一緒に図書室で喋ることにした。
「仕事の関係っていうのは本当だよ。ただ、日程があさってなんだよ。だから1日以上暇なわけ」
「なら言ってくださいよ。すごくびっくりしたんですから」
「ごめんごめん。早くハルカちゃんに会いたくなってさ」
「えっ―――・・・・」
そう言われた瞬間だった。カオルの顔が近づいてきたと思ったら――
扉の開く音をぼーっとした意識の片隅で聞こえた。
「やっ!」
「へへ・・・キスされると思った?」
カオルの唇は寸前のところで止まっていた。
その至近距離に驚いて、ハルカは慌てて自分から離れた。
「なっ・・・!」
「でも、こわーい少年が睨んでるからやめとくよ」
その声で初めてハルカは知った。
図書室の扉の前に立花悠が立っていることに。驚いて目を見開いたままで。
「立花・・・」