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第22回 焦り

 志望校が決まれば、後はもう勉強するだけだ――・・・と思っていたのだが、実際にやってみると、今まで勉強していなかったことが身に染みてよくわかった。

「だから、これはさっき言ったように時制の一致でやつで・・」

「なんで時制を一致させなきゃなんないの・・・・・」

 英語の勉強。全然わからなくて、とうとう根本的なことまで疑問に思えてきた。


 やればやるほど焦りだけが大きくなる。

 しかも、周りの人たちがすらすらと問題を解いていくのを見ているだけでますます焦ってきてしまった。


「ハルカ、そろそろ休憩しようか」

「うん。ありがとー、衣里」

 手をぐっと伸ばしてハルカはストレッチをする。

 こうして、衣里や亜美に勉強をつきあってもらっているが、彼女たちにも自分の勉強があるのだ。ハルカはそろそろ自分で勉強をしなければならない。


 だから、家でもずっと勉強し続けた。

 今までこんなに勉強したことがないと自分で思うほど、机と向き合っていた。

 だけど、成績は全然上がらなかった。


            ◇


「なんや焦るわ」

 バスケ部の活動の休憩中、遊びに来たもりしーに立花(ゆう)はそうもらした。

「なんで焦んの?」

「自分と同じくらいの成績のやつが急に勉強しだすと、こっちまで勉強せなならんような気ぃしてくる」

「ああ、立花さんのことか」


 もりしーに言われるとなんだか全てを見透かされているような気がして、ユウは複雑な表情で俯く。

「そうだよね。自分が部活やってる間に相方が必死になって勉強してると思うと焦るよね」

「ほんまなぁー・・・俺もやんないとやわ」

 ユウは自分の境遇を嘆いているつもりなのだが、もりしー相手だとなんだかあほらしくなってきた。


「気になって勉強できないんだ?」

 やっぱり。もりしーは苦手だと心からそう思った。ユウは肯定も否定もすることなく、タオルで顔を覆う。

「早くしないと、誰かに取られちゃうかもよ」

「え!?なんか知ってたりするんか!?」

 慌てて尋ねたが、もりしーはにっこりと眼鏡の奥で笑うだけだった。


「さあ。どうだろうね。そういうのもなきにしもあらず」

 もりしーのことだ。自分の知らない事情をいっぱい知っていて、きっと他人には何も言わないでいるつもりだ。

 ユウはますます焦りだす自分を感じてしまった。


           ◇


 いつのまにか図書室にはハルカ1人だけだった。

 ずいぶん長い間勉強していたらしい。窓の外はすでに真っ暗だ。

「やっば・・・もう帰んないと」

 そう思った瞬間だ。図書室の扉が開いた。


「立花・・・?」

 そこにはジャージ姿のユウの姿があった。てっきり部活を終えてもう帰ったと思っていたのにまだいたようだ。

「や・・・靴、あったから・・・まだ勉強してるんかいなー思て・・・・」

 しどろもどろに答えると、ユウはハルカの目の前の席にそのまま座り込んでしまった。

 帰ろうと思っていたハルカはどうしたらいいかわからなくなった。


 緊張する。午後7時半、誰もいない図書室。シチュエーションはばっちりだ。

「焦るわ・・・」

「は?」

 ムードの欠片もない親父臭い言い方だった。

「俺も勉強せな。このままやとほんまにやばい」


 やばいと思っているのはハルカのほうだった。だってやってもやっても全然成績は上がらないのだ。

 志望校を決めてからすでに1ヶ月以上たっている。それなのに、問題を解いていても全然わからない。

「焦ってるのは私のほうだよ・・・・・・もうやんなるくらい」

 思わず愚痴がこぼれた。


「やばい思てるのはお前だけちゃうで」

 それが、ハルカの愚痴に対するユウの答だった。

「俺もおんなじや。今立花の話聞いてようわかった。俺も・・・やる」


「立花はどうして大阪の大学に行こうと思ったの?やっぱり地元に帰りたいの?」

 今までずっと疑問に思っていたことを初めて口にした。訊いてはいけなかったかもしれない。

 ユウは少しだけ黙った後、静かに呟いた。

「――前に通ってた高校の提携大学・・・そこにみんな行こ言うてたからやねん」


 やっぱり前の高校の友達が大事なんだろう。ハルカは改めてその違いを感じてしまった。

 頑張ってね。

 って言いたかったのに、ハルカの口から出てきた言葉は違った。


「行っちゃやだ・・・・・」

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