第21回 進路
「えっ?もりしーは大学行かないの!?」
「そう。もう勉強したくないし、いっそ就職しようかなって思ってる」
初めてもりしーの進路の話を聞いて、ハルカは驚いた。
正直、衣里と同じ大学に進みたいと言うと思っていたのだが、実際は違ったらしい。
「なにも大学行くだけが進路じゃないしね。ちなみに、菅原はこっちで大学受けるつもりでいるんだって。小山さん会うために」
「そうなの!?」
思わず興奮して傍にいた亜美を振り返ると、亜美は顔を真っ赤にしてこくんと頷いた。
「まだわかんないけど、そうなればいいなって思ってる・・・」
「よかったやーん!」
自分のことのように嬉しくなって、ハルカも喜ぶ。今まで遠距離で寂しかった分、この2人には幸せになってほしい。
「立花さんはどうするの?」
「あ・・・私は」
答えようとしたとき、教室の扉が開いてゴリオが入ってきた。ハルカと目が合うと、こっちに来るように手招きをしてくる。
「――?ごめん、ちょっと行ってくるね」
だけど、ハルカは呼ばれた理由をなんとなく知っていた。
◇
「進路調査票、出してないのは立花だけなんだが」
「う・・・わかってます。わかってますけどー・・・・・」
ハルカには自分の進路が見えない。目指したいものもないし、興味のあることもない。
焦りだけが襲い掛かる。
そんなハルカの様子を見かねたのか、ゴリオはため息をついて言った。
「しょうがない。特別に明日出せばいいことにしよう。絶対忘れるなよ」
「すいません・・・ありがとうございます」
◇
その日は家庭教師が来る日で、ハルカは志望校が決まらないことを正直に広瀬に話した。
「大丈夫だよ。まだ時間はあるんだし、ゆっくり考えていこう?」
「そうなんですけど・・・なんか焦るっていうか、私以外の人はみんなちゃんと考えてて・・・遠くに行っちゃうような気がして・・・」
心の中の思いを口にするのはなかなか難しかった。
広瀬はそんなハルカを見て、何かを察したらしい。急に持っていた教科書をぱたんと閉じた。
「じゃぁ、ハルカちゃん。今からアンケートを取ります。僕が言うことになるべく正直に答えてください」
「・・・はい」
いきなり何を始めるつもりなのだろうか。
「旅行は好き?」
「へ・・・?もちろん大好きです」
もっと進路に関係する質問でもされるのかと思っていたハルカは、なんとなく拍子抜けした。
「例えば旅行に携わる仕事に就けたらおもしろそうだなぁって思わない?」
「おもしろそう・・・!」
「・・・・・ってなカンジで、気楽に考えればいいんだよ。焦んなくていい」
広瀬のアンケートはそういうオチだったらしかったが、単純なハルカはすぐにそれに興味を持った。
旅行に携わる仕事に――・・・
◇
「中尾先生!遅れて申し訳ございませんでした!」
堂々と遅れて出した進路調査票は、第一志望にC大学と書かれている。
「私の家庭教師がC大生なんですけど、そこに旅行業務取扱管理者の合格率がすごく高い講義をやってる先生がいるんです」
「ほー・・・立花は旅行関係の仕事に就きたいのか」
「あっ、まだいいなって思ってるだけなんですけど・・・・」
お前には無理だって言われるかもしれないと考えていたが、意外にもゴリオはにっこりと笑って頷く。
「いいじゃないか。最後まであきらめないように頑張りなさい」
「はい!」
やりたいことが見つかった。広瀬の言うとおり、後は焦らずに決めていきたいと思う。
◇
職員室を出たところで、偶然ユウを見かけた。
「立花」
思わず話しかけると、ユウはこっちに気づいていつものようにひょうきんな態度で近づいてくる。
「なんやニヤニヤしてて気色悪ー」
「言ってろ言ってろ。私が本気になったら怖いんだから」
だけど、きっとそのときのハルカは本気でないことを知っていたような気がする。
どんなにやりたいことを見つけたって、好きな人と離れることはもう決定している。
ここでハルカも大阪に行くという選択肢はあるのだが、それは間違っているような気がするのだ。
だけど、とハルカは思う。
やっぱり寂しいものは寂しい。できるなら今ここで離れたくないって言いたい。
ただ、それだけだった。