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第20回 それぞれの道

「もりしー!やっと同じクラスになれたね!」

「衣里ちゃん!これで心置きなく一緒にいられるね」

 クラス表の目の前で、人目をはばからずそんな会話をしているバカップル2人。

 そして、その隣で他人のふりをしている立花(はるか)と小山亜美。


「ハルカちゃんと一緒のクラスでよかった〜!」

「私もだよ!3年間ずっと一緒だね。担任もゴリオだったりして」

「そうみたいだよ。だって3年2組の1番上に中尾って書いてあるもん」

「えっ?うそ?」

 せっかくあのゴリオと離れられると思ったのに、結局この人とも3年間一緒に過ごすことになるらしい。


 そして――・・・

「おんなじ名前が2つ並んでると、どっちがどっちかわからんくなるな」

 今来たばかりの立花(ゆう)は、げろーっと心底嫌そうな顔をしている。

「あら、1号。そんな嬉しそうな顔しなくても」

「誰がやねん。しかも担任ゴリオってなんやねん」

 ユウはぶつぶつ言っているが、ハルカは嬉しかった。また1年一緒にいられると思うとどきどきしてくる。しかも、最初は名簿番号順に席が決まっているから、自然と隣の席になるのだ。


 ふと、そのときあることに気づいた。

「あれ・・・?立花、ちょっと背伸びた?」

「そう!よく訊いてくれました!俺、春休み中に2センチ伸びたっぽいんや!160センチやで!」

 とは言っても小さいことに変わりはないが、ハルカと同じくらいだったユウの背が確かに伸びていることがわかる。


「どうや!すごいやろ〜」

「はいはい。すごいですねー」

「ちょっと遅い成長期やねん。今に俺のことチビ扱いできなくなんで」


「「どうせなら惚れ直させるくらいしないとだね」」

 いつのまにいたのか、衣里ともりしーが立花コンビをにやにやとした面持ちで見てくる。

「っていうのは冗談だけど、せめて俺の身長は超えてほしいかな」

「本気か・・?お前、180あるやないか・・・」

 ハルカには、惚れ直させることよりももりしーの身長を超すことのほうが不可能に思えてきた。だってハルカはすでに惚れ直していたから。


            ◇


 始業式が終わってすぐに行われたことは、ゴリオによる進路調査だった。

「いいかーお前ら。間違っても本気で目指すやつ以外東大とか書くなよー」

 この調査票の提出は明日だった。


「ねぇ、衣里と亜美ちゃんはなんて書くの?」

「私は看護学校に入りたいなって思ってるの」

 亜美は照れながら答えるが、世話好きで優しい彼女にとって最高の仕事だと思う。

「私はたぶん大学だなぁ・・・無理だとは思うけどC大とか」


 みんなちゃんと自分の将来について考えていることをすごいと思った。だけど、

「ハルカは?」

「え?」

「え、じゃないよ。明日提出じゃん」

「そっか・・・そうだよね。どうしよう・・・」


 自分の進路。そろそろ決めないといけないことはわかっていたが、いざとなるとどうしようか迷っていた。

 そのときだ。教室の中央から服部の声が聞こえてきた。

「立花、大阪の大学受けるんかー!?」

「おまっ・・・大声で言うなや!」


 それは、ハルカの心の中で響いた。


            ◇


 結局何も書くことができないまま、ハルカは放課後、誰もいない教室に残っていた。

 ただ、白紙の紙を睨みつける。

 自分の進路のことよりも、ユウの進路のことのほうが気になってしまう。

 大阪の大学に行くんだ――・・・


 ガラッ

 教室の扉が開いて、誰かが入ってくるのがわかった。驚いてそこを見ると、ジャージ姿のユウがいた。

「あれー?まだおったんかいな」

 部活中らしく、タオルを肩にかけている。

「う、うん。ちょっとね・・・立花こそどうしたの?」

「俺は忘れもん取りに来ただけ」

 そのままごそごそと机の中を探り出すユウ。


 ユウは本当に大阪に行っちゃうんだろうか。何かの間違いであってほしい。

 せっかく同じクラスになれて嬉しいのに、もう離れ離れになってしまうことが悲しい。

「立花さ、大阪の大学に行くって本当?」

 ハルカの言葉は、外で部活をやっている野球部の声に溶け込んでいった。


「――ほんまや」

 わかっていたことだ。わかってはいたのだが、いざ言われると悲しくなってしまう。

 だけど、ハルカはそれを言ってはいけないことを知っていたような気がした。

「そっか。うん、まぁ・・がんばれよ」

 空笑いをしながら言ったけど、うまく笑えているかわからない。


「立花が大阪行くのやめろって言うんやったら、やめるよ?俺」

 同じくらい静かな声で、ユウは呟いた。

 ハルカは少しだけ考えて、そして首を振った。

「いい。行って」

「・・・・・・・・そうやな。ほな――」


 ユウは教室を出て行った。後には、空虚感だけが残った。

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