第19回 俺のこと好きなん?
ようやく少し動き出します。
ダメだ・・・寝れない。
修学旅行最後の日の夜、ハルカはなかなか寝つけずにいた。
それも昼間のことが気になってしまって眠れないのだ。
『両想いなんだからつきあっちゃえばいいじゃない』
後で聞いた話だと、どうやら太田はユウに告白してフラれてしまったらしい。もしかしたらそのときに、ユウがハルカのことが好きなんだと言ったのかなとも考えたが、態度を見ていてすぐにそれが間違いであることがわかった。
あいつが自分を好きなんてありえない。だってあいつにはあんなかわいい彼女がいるんだし・・・
そうだ、はっきりしてほしいことは、ユウは彼女がいるのかいないのかということだ。
結局文化祭のときにユウはどのように返事をしたのかわからない。
そこまで考えてみて、ハルカはだんだんあほらしくなってきた。
明日も早い。こんなことを考えている間にとっとと寝よう。そう思ってようやく眠りにつくことができた。
◇
最後の日は、バスでソウル市内を回る。
韓国は日本よりもはるかに車道が広い。多い所では片道8車線あるらしく、反対車線と合わせると16車線もあることになる。
バスは5組と6組で一緒に行動するため、衣里は自然ともりしーと行動するようになった。
そうなると、ユウや服部とも一緒になってしまう。ハルカと亜美は、彼らと話すようになった。
「2人とも昨日は見たよ。なんかのイベントに参加してるの」
服部の声で、ハルカたちは顔をぼっと赤くした。あんなドレス姿を見られたかと思うとさすがに恥ずかしいのだ。
「なんであそこにいたのかなーって言ってたんだよなー?立花」
急に話を振られたユウは一瞬驚いた顔をする。
「ほんま驚いたでー」
「驚いた?馬子にも衣装でしょ」
少し嬉しくてそう答えると、ユウはそれを無視して亜美にだけ話しかける。
「いや〜小山さんとか宮崎さんとかはわかったけど、そういやなんやちんちくりんなのが1人おったなー」
「そんなこと言っちゃ、カオルさんに失礼だよ」
ハルカがちんちくりんを勝手にカオルにすると、あからさまにユウは不機嫌な顔をした。
「その名前を言うなや」
「はっ?なんでよ」
いつのまにか亜美と服部はその場から非難していて、またいつものように2人の口ゲンカが始まる。
「それは・・・・・なんでもや!」
ますます気になる。しかし、ハルカが問いただそうと思った瞬間、別のことに気づいた。
「やっば!鍵どっかに落としてきちゃった!!」
「は?鍵?」
「さっきトイレ行ったからそこかもしんない!先行ってて。集合時間までには戻るから」
そう言って、ハルカはユウの返事も聞かずに駆け出していった。
◇
しかし、鍵はトイレにはなかった。
朝までは確かにポケットの中に入っていたのに、気がついたらそれがなくなっていた。
韓国で鍵をなくしても特に問題はないが、それについているもののほうがハルカにとっては大切なものだった。
「見つかったか?」
気がつくと傍にユウがいた。ハルカは小さく首を振る。
「ええやん。日本に帰って合鍵作れば」
「そうだけど・・・あれは大切なものなの・・・」
「・・・・そんな大事なもんつけとったん?」
「――うん。『31』のキーホルダー・・・・・」
そこまで言ってようやく自分が無意識に呟いた内容を理解した。それは、クリスマスにユウにもらったキーホルダーのことを言っているのだ。
うわっ・・・・恥ずかしい・・・
穴があったら入りたい心境に陥り、ハルカは自分の顔が赤くなっていくのを感じた。だけど――・・・
「そんなんまた俺がプレゼントしたるわ」
「・・・いいよ。ごめん、なんか気を遣わせちゃって」
「ええって。それより訊きたいことあんのやけど・・・」
ハルカは顔を上げる。
「俺のこと・・・好きなん?」
そのとき、強い風が2人を覆った。
◇
「ごめん・・・・意地悪したわ」
そう言ってちゃりんと音を立ててユウは手の中からハルカの鍵を出してきた。
「――!?それ!どこで?」
「そこのベンチや」
そういえばあそこでさっき休憩したことを思い出した。きっと座ったときに落としてしまったのだろう。
「ほな、行こか」
「う、うん」
ユウがよくわからない。だけど、少しだけユウが照れている様子を見て、なんだか嬉しくなった。