第17回 イベント
先日、韓国に個人的に旅行をしてきたので、
そのときのことを参考にしています。
お昼ごはんを食べるために、ハルカたちが立ち寄った店は、なぜ韓国に来てここなのかと疑いたくなるような場所、ドーナツ屋だった。
しかし、そこで思わぬ人と遭遇することになる。
「俺と君ってそんなに似てるかなー?」
顔を上げると、そこにいたのは帽子を目深にかぶり、サングラスをかけた顔のよく見えない男の人だった。
彼は失礼なほどハルカを観察してくる。
「あの、失礼じゃないですか?」
衣里がここのみんなの言葉を代弁すると、男はごめんごめんと誤り、サングラスを取った。
「桜井薫です。一応こっちではモデルをやってるんだけど、よろしくね」
カオル・・・?その名前を聞いたとき、ハルカはさっき会ったスオンのことを思い出した。
「あっ!もしかして・・・イ・スオンさんが捜してた人って――」
「そう俺。でもまだ連絡しないでね。俺にはやりたいことがあるんだから」
そう言うと、カオルはしーっと人差し指を立ててケータイを取り出して打ち始める。
ハルカたちはどうすることもできずにただ黙っていた。
「よし!決定!」
ケータイをぱたんと閉じると、カオルは急に立ち上がった。
「君らさ、個人旅行でここに来たの?」
「いえ・・・修学旅行ですけど・・・・」
ハルカはおずおずと答える。
「なら自由時間まだあるだろ?ちょっと俺につきあってよ」
その軽い誘いに、ハルカたちは顔をしかめることしかできなかった。
なんせさっき会ったばかりの人に、いきなりどこかへ行こうと言われているのだ。しかも、こんな知らない場所で。
とにかく断ろうとしたときだった。カオルの背後からぬっと人影が現れてそこに立ちはだかった。
「やっばー!スオンさん、最速記録じゃねぇ?」
「当たり前です。カオルの行く所なんてだいたい想像がつきます。どうせ俺のことを近くで見ていて笑っているだろうから、日本人の女の子を捕まえてカオルに似てるって言ったんです。そうすれば、その子に接触すると思ったから・・・」
「さっすが俺のマネージャー」
スオンはハルカを見て、深々と頭を下げてきた。
「申し訳ございませんでした。こんなことに巻き込んでしまって」
「いっいえ、気にしないでください」
慌ててハルカは頭を上げるようにスオンを促す。
「お詫びと言ってはなんですが、これから時間があればカオルのイベントでも見ていってください。最前列をご用意します」
「イベント?」
「その必要はないよ。もう知り合いのスタイリストに話をつけてある」
カオルはにーっと笑った。
◇
自由時間はまだたっぷりとある。
スオンも来たし、1時間半くらいで終わるからと言われ、渋々行ってみた所は意外にもすぐ近くの広場だった。
「イベントってここでするんですか?」
「そうだよ。君たちのホテルのすぐ近くでしょ」
こうして見てみると、本当に端整で優しい顔立ちをしていると思う。思わずハルカは見惚れてしまうと、急に後ろから誰かに腕を引っ張られてしまった。
「―――――?」
女の人だった。たぶん韓国語で何か言われているんだろうが、さっぱりわからない。
背後にいたカオルが代わりに会話をし、最後にハルカの背中を押した。
「え?なに?」
「じゃぁ俺はもうスタンバイしなきゃだから、20分後にまた会おうね、ハルカ」
「はいっ?」
◇
その頃、ホテルの近くにいた立花悠は服部たちと一緒に行動していた。
これから南大門まで行くつもりだったのだが、
「なぁなぁ、なんかあそこでイベントやってるみたいなんだけど、行ってみないか?」
「イベント?なんやおもろそうやな」
祭りごとが大好きなユウはすぐに反応してそれに賛成する。
それは、どうやら男の人のイベントらしく、ステージを中心にしてたくさんの女の人が集まっていた。時々カオルという単語が聞こえてくるので、ひょっとしたら日本人かもしれない。
「見えるかー?立花」
「うー・・・まぁなんとか」
「見えないなら俺が肩車してやろうか」
「いらんお世話じゃ!」
158センチが怒鳴る。見えないのは事実だが、特別見たいわけでもなかった。
しかし、
「おい、あれ立花さんたちじゃない?あと、宮崎さんと、小山さん」
服部の言葉に反応して、ユウは精一杯背伸びしてステージを見る。
そして、そのまま固まってしまった。
本当にいたのだ。ドレスを着た衣里と、亜美と、それからハルカが――・・・・・