第15回 バレンタインデー
バレンタインデーの前の晩、衣里の家でチョコレートを作り上げた。
ハルカは広瀬の分と、そのついでにユウの分。衣里はもりしーの分。亜美は遠くにいる菅原のためにチョコではなく帽子を編んだ。
「ついでねぇ・・・」
衣里にじとっと睨まれたが、ハルカはあくまでも家庭教師の広瀬へのチョコを作るついでとしてユウのチョコを作っているのだ。
そうとでも言わないと、からかわれることがわかっているからなのだが。
とにかく、チョコは完成した。
あとはこれをユウが受け取ってくれるかどうかだ。
◇
とは思ったものの、いざとなったらどうやって渡せばいいのかわからない。
堂々とチョコを渡せば、これは本命だと言っているようなものだ。そんな恥ずかしいことはできない。
それなら下駄箱に入れてみる?でも、それこそハルカがやったとわかれば恥ずかしさが勝る。
衣里は素直に隣のクラスに行き、堂々と廊下で渡していた。
「はい、もりしー!頑張って作ったんだよー!」
「わぁっ!すっごい嬉しい。ありがとう」
これほど素直なカップルもいないだろう。
ハルカは亜美と一緒にそれを見ながら、かぁーっと照れていた。
と、そのとき他の男子と話しながら廊下に出てくるユウを見つけた。
まだこっちの存在に気づいておらず、誰か女の人に話しかけられ、どこかに行ってしまった。
急に胸騒ぎを覚えた。
「あ・・・これで2個目かな」
もりしーが呟く。
「どういう意味?」
「朝、下駄箱にチョコが1個入ってたんだ。俺の知る限り、これで2個目」
◇
結局渡せないまま帰りの時間になってしまった。
「ハールカ、このままでいいのー?」
衣里の質問に、ハルカは俯くしかなかった。
「立花君、今職員室に呼ばれてったよ」
まるでこれがチャンスだよと言わんばかりの言葉だった。
こくんと頷いて、ハルカは飛び出す。
せっかく作ったのだから、どんな形でもいいから渡したい。ただそれだけだった。
しかし、廊下を走り続けて、曲がり角で誰かとぶつかってしまった。
「わっ・・・!」
その拍子に持っていたバッグの中のものがぶちまけられた。
教科書、ノート、それから渡そうと思っていたチョコレートの箱も。
ハルカはそのぶつかった相手がいるとわかるとすぐに落ちたチョコを拾い上げて、そのまま相手に押し付けた。
「っっっっ!?なんやねん!?」
「いいから!!」
後で思ってもなんて強引な渡し方だったんだろうと思う。だけど、それが精一杯だったんだ。
それから、すぐに立ち去ろうとした・・・・・
「立花!待てって」
ぐいっと腕を掴まれて、ハルカは驚いて振り返る。それと同時に、渡したはずのチョコを押し付けられてしまった。
「受け取れん。これは・・・あかん」
「なっなんでよ」
聞きたくないのに、思わず声に出てしまった。
「あかんよ。こーゆーのはほんまに好きなやつに渡すんやで」
にっこりと笑ってそう言われると、ショックを通り越してあきれてしまった。
「もういいよ・・・・・立花なんて畑の肥やしにでもなっとけー!!」
「はぁ!?意味わっかんねーし!」
そう言った夕ユウの顔面めがけて思いっきりチョコを投げつけた。地味に痛そうだった。
「黙って受け取っとけ!」
それが決めゼリフ。
もう何も言われないように、ハルカは全速力で駆け出した。
◇
翌日の気持ちはとにかく重かった。
まずユウに会いたくなかった。衣里に昨日のことを話すと、馬鹿だと笑われてしまった。
そして、そういうときに限って朝一番に会ったりする。
「よぉ。昨日はどうも」
ユウの開口一番がそれだった。ハルカは目をそらして挨拶を返す。
「だーれかさんのせいで、なんや鼻が痛いんですけど」
「なんのことやらさっぱりですが」
ごにょごにょと呟くと、通り過ぎる際にユウが一言呟いた。
「チョコ、うまかった。さんきゅ」
たったそれだけでなんでこんなに嬉しくなったんだろう・・・・・・