第14回 一発逆転?
年が明けた。
年末年始はあっというまに過ぎていき、気がつけば冬休みも終わってしまった・・・・・ということに気がついたのは、始業式の朝だった。
「やっばい!遅刻だー!!」
朝ごはんもろくに食べずに、立花悠は家を飛び出す。自転車にまたがり、今までにないスピードで学校へと向かう。
せっかく今年1年は品行良性に過ごそうと思っていたのに、最初の登校から遅刻だなんてなんとしても避けたい。
しかし、どうやらハルカだけではないらしい。
猛スピードで下駄箱まで走ると、先に靴を脱いでいる人影を見つけた。
「あれっ?立花・・・?」
「おーっす。なんや、今登校かいな」
「あんただってそうでしょ。やばい・・・話してる時間もないし」
急いで靴を脱ぐと、先に立花悠が走り出す。
「ちょっとー!レディーを置いていく気?」
「誰がレディーやねん!1番最後にはなりたないしな!先行くわ」
ハルカも急いでユウを追いかける。
追いつけないと思っていたのに、意外にも早く追いついたのは、ユウが手加減して走ってくれたからなのかもしれない。
しかし、教室に入る頃にはどっちが先に入るかでぎゃーぎゃーと揉めてしまったが。
「ちゃうねん!俺のほうが先に来とってん!無実や!」
「でも、先に教室に入ったのは私です。だから・・・・・」
「「掃除当番は最後の立花(さん・君)にやらせてください」」
遅刻に対する言い訳に、担任のゴリオは一言呟いた。
「お前らどっちも教室掃除しとけ・・・」
◇
「ウケる〜!結局どっちも掃除当番じゃん」
この話を聞いた宮崎衣里はげらげらと笑い出した。亜美はどうすることもできずにただおろおろとしている。
「なんかいつのまにか文化祭の前みたいになってるよね。ずっと気になってたんだけど、クリスマスの後なんかあったの?」
ハルカはぎくっとして黙り込む。
一言で言えば、その答えはノーだ。ただその日の朝に怒鳴ってしまったお詫びにプレゼントをくれたわけで、クリスマスプレゼントというわけではない。
だけど、ハルカはユウが好きだと改めて思ってしまった。
「ああ。言っとくけど私たち、もうハルカが立花君のこと好きなの知ってるからね」
「ちっ違うよ!」
慌てて否定したが、衣里はにやりと笑い、亜美は困ったように笑っている。本当のようだ。
「なんとなく見ててそうかなーって思ったの。きっと立花君もハルカちゃんのこと好きなんだと思う」
「そんなわけないよ・・・あいつ彼女いるし・・・」
衣里の言葉に否定しながら、自分にどん底に落とす言葉を言ってしまった。
文化祭の後から、結局ユウの彼女の話はなくなってしまった。
だけど、ハルカは知っている。彼女からまたやり直したいと言われたことを。
その返事をどうしたのか知りたかった。
「ここは一発逆転だよ!」
衣里が持っていた雑誌をどんっと机の上に置く。そこにはバレンタイン特集が載っていた。
「チョコをあげるのさ・・・」
「やだよ!チョコなんてあげたことないから!」
「ちょうどいいじゃん。立花君が初めてってことで」
「無理だよ!そんなんしたら向こうだって気づいちゃうじゃん」
ようやく今までの関係に戻れたのに、ハルカはそれが崩れることをなによりも恐れていた。
それに気づいたのか、衣里はちぇーっと雑誌を取り上げる。
「ハルカー、このままでいいの?」
その質問に答えることができなかった。
◇
このままでいいの?という質問に、ハルカの答えは2つある。
1つはイエス。せっかく以前のように話せるようになったのに、これ以上関係がこじれるのは嫌だ。
もう1つはノー。好きな人ができたら、誰だってもっと仲良くなりたいと思うんじゃないだろうか。
その日は家庭教師の広瀬が来る日で、勉強中ハルカは男の意見をそれとなく訊いてみることにした。
「ねぇ、先生は好きでもない女の子からチョコもらえるのって嬉しかったりするんですか?」
「え?なに急に」
広瀬は少し驚いていたが、それでも真剣に考えてくれた。
「そりゃぁ嬉しいよ。俺甘いもの好きだし、手作りとかだと余計嬉しいかな」
男の人ってそういうものなんだ・・・
ハルカはそう考えて、カレンダーを眺める。2月14日、バレンタインデー。
先生にチョコをあげるついでなら・・・・・・ついで、うん、ついで!
ハルカはチョコを作ることを決心した。