第12回 最低な時
クリスマスイブ。
立花悠はショッピングセンターの書店で立花悠の姿を見た。
それも、かなり男前で背の高い男と一緒に歩いているところを見てしまった。
「あいつ・・・彼氏おったんかい・・・・・」
思わずひとり言がもれた。
◇
翌朝、ハルカが登校すると、珍しく遅刻してこなかったらしくユウと下駄箱で会った。
文化祭の一見以来まともに会話していなかったので、一瞬話題に困っていると、意外にも向こうから挨拶してきた。
「おっす」
「・・・おはよう」
たったこれだけのことなのに、ハルカはどきどきするほど嬉しさを感じている自分に気づいた。
それと同時に、こっちを怪訝そうな表情で見ているユウの視線にも気づいた。
「なによ」
「別に・・・・・・あんさぁ、昨日どっか行った?」
今度はハルカが疑問に思う番だった。
「ショッピングセンターには行ったけど・・・なんでそんなこと訊くの?」
「や、それっぽい人見かけてな・・・1人で行ったん?」
「うん。そうだけど・・・」
このときのハルカは、まさか自分が試されているなんて思いもしなかった。
だから、その後ユウが「ほな、先行くわ」とか言って行こうとするので、慌てて後を追いかけていった。
「ねぇ!あんたも昨日ショッピングセンターに行ったの?」
ハルカとしては当然の質問のつもりだったが、いきなりきっとユウに睨まれてしまった。
「そんなんお前に関係ないやろ!」
なんでそんなふうに言われなければならないのかわからず、ユウの怒声にハルカはぶちっときれた。
「なにさ!あんただって似たようなこと訊いてきたんでしょうが!」
「それとこれとは話が別や!」
「別じゃないよ!」
売り言葉に買い言葉。思わずユウの腕を引っ張ると、そのままユウが後ろにばたんと倒れてきた。
げっ・・・・そんなに強く引っ張ったつもりないのに。
慌てて手を貸そうと伸ばしたが、ユウはそれを無視してまたまたじとっと見てくる。
「言いたいことがあるんだったらはっきり言ってよ」
「――――もうええわ。俺が悪かった」
さらに腹が立つことを言われ、久しぶりの会話は強制的に終了した。
◇
「〜〜〜なんなのアイツ!超ムカツクんですけど・・・」
「私は超ハッピーだよ。昨日もりしーとラブラブデートしてきたもん。亜美ちゃんは?」
「わっ私も。菅原君と遊びに行ったよ」
ハルカと衣里と亜美の会話はバラバラに見えるが、正確にはハルカの意見だけ無視されているだけだ。
それが面白くない。
目の前の2人はクリスマスイブに彼氏とラブラブに過ごせたということが。
「ハルカも立花君に告っちゃえばいいのに」
「なんで告んの。好きでもなんでもないのに」
そう言ったとき、教室に男子の集団が入ってくるのが見えた。その中心となっているユウの姿を見て、ますます朝のことが気に入らなくなってきた。
と、そのとき男子の1人が教室中に響く声で話し始めた。
「なーみんな!もしこの後暇だったら、みんなでカラオケ行かねー?」
それはどうやらクリスマス会のようだった。2年5組だけで集まるらしい。
「ハルカ、どうする?」
衣里に尋ねられ、ハルカはうーんと悩んだ。行ったら絶対ユウに会うような気がする。どうせまた腹が立つに決まっている。
しかし、それでも予定がないことだけは否定できなかった。
いつのまにか目がユウを追っていた。
あいかわらず楽しそうに笑っている。やっぱりムカツク。
・・・・・・だけど、だけど、クリスマスだし・・・会いたい。
「行こうかな」
その言葉は自然とハルカの口から漏れた。