第10回 遠距離恋愛
菅原翔太の話を聞いて、衣里、もりしー、ハルカ、亜美が食堂に集まった。
「一言ぐらい言えよ」
いつもにこやかに話すもりしーこと、森下和樹が静かに言い放つ。
「クラスは違ったけど、俺は菅原の友達のつもりでいたんだけど」
「悪い。俺みたいなやつ、別にいなくなったって誰も困らないだろうと思って」
たぶん本心でそう言っているのだろう。それが余計に辛かった。
「菅原、本気でそう言ったんなら、今すぐ小山さんに謝れよ。誰よりもお前の転校を悲しんでんだから」
もりしーの言葉で、とうとう小山亜美は泣き出してしまった。
思い返せば、菅原は亜美とつきあうまでは学校も休みがちだった。しかし、つきあいだしてから1度も休んだところを見たことがない。
たった2ヶ月とちょっとの短い時間だったが、2人にとってはとても大切な時間だっただろう。
「小山・・・ごめん、俺・・・・・」
「やだ・・・・・・笑って見送ろうと思ったのに・・・」
亜美のその様子が、見ていて辛かった。
しばらくして、1人の男子生徒が慌ただしく食堂に入ってきた。
「立花」
最初にもりしーが気がついて、こっちに来るように手招きする。彼女は一緒ではないらしく、どこから走ってきたのかずいぶんと息が荒い。
「今メール見た。ほんまなん・・・菅原が転校するっちゅうんは・・・・」
「うん。悪い、言わなくて」
菅原はこの日何度目になるのかわからない言葉を口にする。
「いや、気持ちはわかるで。俺かて、自分転校するとき、誰にも言わんと行くつもりやったし・・・結局担任に言われてしもたけど」
すとんと空いているイスにユウは腰掛けた。
ハルカはユウを見ることができなかった。
菅原の転校のことで一時忘れていたが、本人が現れたことでまた思い出してしまった。あの告白のことを。
今はそんなことを考えてる場合じゃないのに。
そう考えていると、菅原がひょいっと立ち上がった。
「じゃ、俺そろそろ行くから」
しかし、みんなが学校前まで見送りに立ち上がろうとするのを彼は制した。
「――ここでいいよ。みんなによろしく言っといて」
そして、みんなの顔を見渡してから、最後に亜美の顔を見た。
「・・・・・行ってくる」
「うん・・・行ってらっしゃい・・・・・」
菅原は苦笑して、それからユウともりしーに向き直る。
「小山に手を出す男がいたらぶっ飛ばしといて」
「「まかせろ」」
3人はにっと笑って、互いの拳をごつんとぶつけ合った。
そうして、菅原は学校を去っていった。
◇
後の文化祭はなんだか物寂しいものになったが、それでも亜美は元気に振舞ってみせる。
それがから元気だということに、ハルカたちは気づいていた。
その日の帰り道、ハルカと衣里と亜美が並んで帰る中、亜美はぽつりと呟いた。
「私・・・菅原君とつきあう前は、好きな人が遠くに行っちゃっても平気だと思ってたの」
ハルカと衣里は黙って亜美を見る。
「だけど、違うんだね。いつもいつもその人のことを考えちゃって、ずっと一緒にいたくなって、離れることがこんなに辛いことだったなんて思わなかった・・・・・」
そのとき、ハルカは自分の心境を考えていた。
今亜美が言ったことを、ハルカも思っていたのだ。ずっとその人のことを考えて、一緒にいたくて、どこにも行ってほしくなくて・・・・・
「それが恋だよ」
衣里の一言にハルカは驚いた。
まさかそんなわけがない。ハルカは必死にそれを否定した。自分がユウに恋しているかもしれないということを――・・・
絶対ありえない。
絶対。