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幼女のオットマンは幸福か 2

「ど、どうしたんですか? シャルちゃん、どうして急にそんなことを……」

「気にすることないわよ、マリア。こいつは幼女に頭を踏まれて喜ぶドヘンタイなの」

「シャルちゃん……」


 声色から、マリアさんがドン引きしていることが分かる。ちくしょう!


「わ、私も踏んだ方がいいんでしょうか……」

「泣いて喜ぶわよ」


 喜ばねえよ。というか、マリアさんドン引きしてるわけじゃなかったんだ。よかった。

 マリアさんは恐る恐るといった感じで僕の背中に足を伸ばした。


「つ、辛くないですか?」

「だ、大丈夫だよ」

「ママにして貰えてよかったわね、ヘンタイ」

「えっ?」

「えっ――」


 マジやめろよ。これ以上僕の尊厳を踏みにじらないで。踏みにじるのは頭だけにして。

 となると困った。カミュのホームシックへの対処法がない。頼りになるエマさんにも今回ばかりは聞けない。彼女の両親は亡くなっているそうだから。


 頭と背中が幼女熱で温められて思考がぼやけてくる。やばい、超気持ちいい……。意識が溶けてしまいそうだ。ロリと幼女は使いようだな。これでカミュを抱いたら天国へ行ける気がする。精神的にも物理的にも。

 急に後頭部を叩かれ、意識が覚醒する。


「なにとろけた顔してるのよ。気持ち悪い」

「し、仕方ないだろ」

「なにが仕方ないのよ」

「いや、それはその……あっ、やめっ、つま先でツンツンしないで」


 何このドS……完全に弄ばれてる……。

 セルシスの真似をして僕の横腹を突いてくるマリアさん。足使いがえっちい……。


「まあいいわ。真面目な話をしましょう。ほら、立ちなさいゴミムシ」

「いや、ちょっと今はまずいかなって……」

「は? ふざけないで。早く立って椅子に座って」

「あー……もう立っているというか、立てないというか……。もう少し踏まれてたいかな、なんて……あはは……」

「……死ねば?」


 さっと足を引く二人。本当に死にたい。色々な意味で死にたい。誰か僕を殺してくれ。

 手のひらを貫くがごとく爪を食い込ませて荒療治を行う。ふう、危なかったぜ。平然と椅子に腰かける僕に、二人は目を合わせようとしない。


「よし、セルシス進めてくれ」

「話しかけないで。ヘンタイが移る」

「移んねえよ。そもそも変態は病気じゃないからな」

「そうね。性癖障害だったわね」


 うん、それは反論できない。いや、踏まれて喜んでないからね。変態さんじゃないからね。


「私はカミュを両親のところへ連れて行こうと思うわ」

「は? それはないって、さっきなっただろ」


 すると彼女は、『は? なに言ってんのこいつ。そんなことも分からないの? このヘンタイゴミムシ』という目で僕を嬲る。よく分かんないけれど胸がキュンとした。なにこれ……。それでもちゃんと説明してくれるセルシスさん優しい。


「可哀想だけど、現実を見せればもうホームシックになることはないでしょ。これからずっと私たちと生きていくんだから、それを知るのは早いにこしたことはないわ」

「確かにそうだけど……」


 理屈は分かる。しかし、果たしてカミュはその現実に耐えられるだろうか。絶望して塞ぎ込んで、心を閉ざさないだろうか。正直なところ、カミュに辛い思いをして欲しくない。だってまだ五歳だ。たくさんの愛を注がれて育つ時期だ。


「私だって、こんなことしたくないわよ」

「分かってるよ。セルシスはカミュやみんなのことを思って、損な役を引き受けてくれたんだよな」

「べちゅ……べ、別にそういうわけじゃないわよ」


 なに今の、かわいい。


「そっか、べちゅにそういうわけじゃないのか」


 僕がニヤけてみせると、彼女は瞳を潤ませて睨んできた。

 なかったことになんてしてやらないからな!


「シャルちゃん、その歳で赤ちゃん言葉はちょっと……」


 えぇ……。なんで僕だけ……。

 セルシスが嘲笑を浮かべる。悔しい。


「せ、セルシスだって……」

「だからね、シャルちゃん。年齢がね、違うんです」


 聞き分けのない子どもに諭すママみたいだ。僕は母親がいなかったので、もっとママに怒られたいという感情が湧いてくる。あ、そうか。君が生き別れのママだったんだね。ママに抱っこされたいし、ママのおっぱい吸いたいし、はあ……ママ好き。あれ、これはもしやホームシック……。僕の家、もうないんだけどね。この子たちに破壊されてさ。アハハ。マリアさんに責任取って貰わなくちゃ。


 袖を引かれて振り向くと、カミュがつぶらな瞳と目が合った。赤く腫れた目が痛々しく、ぬいぐるみを抱きながら小さな唇を噛む姿には庇護欲を掻き立てられる。


「しゃぅ……ぱぱ、まま、あーたい」


 こんな風に頼まれたら断れるわけがない。僕はカミュの薄い桃色の髪を撫でて笑顔を浮かべた。


「会いに行こう」


 先ほどまで泣いていたのに、その一言を聞いた瞬間に表情がコロッと変わる。満面の笑みを浮かべ、カミュは継ぎ接ぎだらけのぬいぐるみをぎゅっと抱き締めた。


「しゃぅ、だいしゅち」

「あっ……」


 胸を貫かれた僕は、その場に倒れ伏した。


 幸せそうな顔で逝ったと、後にセルシスが語った。侮蔑の込められた目で見下し、僕の頭を踏みつけながら。

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