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幼女の母性に抗えない 6

 帰り道は互いに無言だった。けれど、手から伝わる温度が雄弁に語っている。

 家に着くと彼女は名残惜しそうに手を放した。俯いて、スカートの裾を握り締める。


「大丈夫だよ」


 リノたちはお前の帰りを待っているから。


「……うん」


 勇気を振り絞るように目をぎゅっと閉じて深呼吸。ゆっくりと吐き出す息は、かすかに震えていた。


 彼女が扉へ手をかけたその瞬間、向こうから勢いよく開いた。

 玄関の戸は外開き。セルシスは額に殴打を受け、よろめきながら倒れるように僕の腕の中へ収まった。


「あっ――」


 満面の笑みを引き攣らせ、リノが固まる。その後ろにいたマリアさんは頬に手を当てて目を伏せ、カミュは大きく首を傾げていた。何が起きたか分かってないんだろうな……。


 額を押さえたセルシスは彼女たちから目を逸らし、何度か口を開きかけるも言葉が出ない。ようやく出てきたのは、いつもの悪態だった。


「そ、外に人がいるって発想はないの? まったく、リノは本当にバ――」

「セルシー!」


 飛びつくようにセルシスの身体を抱き締め、頬をスリスリする。


「ちょ、ちょっと、やめなさいよ……」

「セルシー! セルシー!」


 二つの柔らかい頬がぷにぷにと形を変える様を見ていると、心が癒やされる。

 そこへマリアさんとカミュも加わり、セルシスは迷惑そうに悪態を吐く。けれど、耳まで赤く染まったその表情は口元が緩み、柔和な眼差しでリノたちを眺めていた。


 セルシスを伴ってマリアさんたちが家の中へ入っていく。僕も入ろうとすると、リノが駆け寄ってきた。


「かならずセルシーを見つけてくれるって、信じてたぞ」


 屈託のない笑みを浮かべるリノの頭を撫でてやると、不思議そうな声を上げた。


「シャルからセルシーの匂いがする」

「は? 何言って――」


 心当たりがありまくりだった。下着姿のセルシスを抱き締めたのを思い出す。柔らかかったな。腕の中にすっぽりと収まって、抱き心地は最高だった。胸がぺたんこな分、密着度が高く、彼女のすべてを感じることができた気がする。幼女最高かよ……。


「におう、におうぞ!」

「そ、そうかなー、あはは……」


 下着姿ってほとんど全裸みたいなものだし、いよいよまずいのでは。


「リノ、なにしてるの」


 セルシスだ。きっと彼女も旧家でのことを知られたくないのだろう。あれは二人だけの秘密。誤魔化してくれるはずだ。


「なんかな、シャルからセルシーの――」

「こんなゴミムシに構ってないで早く中に入りなさい。近くにいるとゴミムシが移るわよ」


 いや移んねえよ。


「アハハ、それはいやだぞ。じゃあな、ゴミムシ!」


 えぇ……。扱い酷くない?


 リノへ続こうとするセルシスは立ち止まると、小さく振り返った。後ろ手に組んだ指が白むほど強く絡まる。笑みを噛み殺して、柔らかい声色で言う。


「……なにしてるの。はやく、入りなさい……シャル」


 ふっと笑みを吐き出して、僕は彼女の後ろに続いた。


 何だよ、かわいいかよ。

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