mission 1-3 コックリさん帰らされる
と、コックリさんとは何ぞやという問答も心的世界で繰り広げたものの、どうやって帰すのかという根本的な問題を解決するには至らなかった。
京都ならお茶漬けを出せば帰ってくれるのだろうか。
サラリーマンのコックリさんなら、時計をチラチラと見れば察してくれるのだろうか。
会話がほぼ不可能な以上、検証しようがない。
もはやコックリさんを終わらせる方法はないのではと思っていたところ、Aが豪快なくしゃみとともに指を離した。脱出成功である。
こいつ本当にこういうことばっかりする。
しかしながら、コックリさんを途中で離脱したにもかかわらず、なぜ脱出成功か。
その答えは言わずがな、コックリさんがまだ紙上の硬貨に留まっているはずだからである。
こういう時は無断で最初に離した人間が呪われるとか聞くわけだが、では残った者は帰らせてもいないコックリさんに対して
「あー終わった終わった、お疲れさん!」
と帰ってしまって良いのだろうか。
硬貨が動くということは、呼び出されたコックリさんは硬貨もしくはその近辺に宿っているはずで、一人の接続が切れたからといって丸ごと一人に移ると考えるのは不自然だろう。
だってそれじゃ、はじめから一人に取り憑いている事になる。
つまりコックリさんは高確率で未だ二人の周囲に留まっているはずであり、逆に言えば最後まで硬貨と接していた者が一番危険なのではないだろうか。
幼い頃によくやった、汚いものを触った場合にはその手を他人になすりつけ、最後についたものが汚物扱いされるデスゲーム。あのような感じである。
憑物とはよくいったものである。
しかしいい加減、終わりが見えなくてイライラしてくる。
帰れと言っているのに帰らないとか、悪徳セールスの様相である。呼んだのはこっちだが。
そこで我々は最後の手段をとることにした。
お客さんを無理やりドアの向こうに追い出し、入り口を閉めたのだ。
オカルトの世界も最後は腕力。
硬貨を鳥居のマークまで持っていき、よし帰ったと叫んで紙を処分し、硬貨は自動販売機でジュース代の足しにした。
完全にやっては駄目な行動ではあると思うが、硬貨はきちんと出口まで行ったし、最後までコックリさんが留まっていたであろう硬貨は自動販売機に吸い込まれていったので、最後に憑くなら自動販売機か次に釣り銭を手に入れた者ではないだろうか。
これはまあ、希望的観測ではあったものの、それから十年以上経っても
「これはコックリさんの仕業でしかあり得ない」
なんて出来事は起こっていない。
強いて言えば我々三人は他と比べてやけに長いこと童貞をこじらせたぐらいだが、そもそもこんな事ばかりしているメンタリティが良くなかったのであって、断じてコックリさんの所為ではない。
もし童貞がコックリさんの仕業であれば、神父や巫女さんなどはコックリさん憑きになってしまう。ないない、それはない。
そのような経緯でコックリさんは無理矢理帰せたようだが、他の人でも上手く行くかは分からなかった。
ついでにいうと、無理矢理帰らされたコックリさんが最後まで宿っていたであろう硬貨も、あのまま呪物的な何かになったのか謎である。