なつやすみのおもいで
今度はママ視点です。
今日は秋の保育参観。
夏休みの思い出というタイトルで事前に絵日記を書いてもらい、その内容についてみんなの前で発表してもらう、4歳児にはちょっと大変な内容だ。
但しみんなの前で話が出来るのが目的なので、4語文を5つ位並べた内容なら大抵の4歳女児は簡単にクリアできる。男の子の場合は口が回らない分、ジェスチャーなどで補うので、発表会として見ていて微笑ましい。
「うさぎぐみ しんのう みずきです」
パチパチパチと拍手が起こる。これはどの子でも同じ。
「ことしのなつは、おともだちがふえました。ヒースさんにもらったアリスちゃんです。アリスちゃんはおおきなうさぎのぬいぐるみです。ヒースさんはおとうさんのしごとのしりあいです。このあいだはおうちにあそびにきてくれました。アリスちゃんとおそろいでリュックを2つプレゼントしてくれました。わたしはやさしいヒースさんがだいすきです。でもパパのほうがもっとすきです」
クスクスと笑い声と拍手が混じる。
最後の一文は、家で練習した時に祐介さんがマジ泣きしたので、急遽付け加える事になった。
奴は自分が親バカだと思ってないらしいが、4歳児に気を使われてる地点で相当なものだと思う。
発表が終われば、保育士さんの質問タイムだ。
「みずきちゃん、ヒースさんがおうちにあそびにきてくれたんだね。どこから来てくれたのかな?」
「Aこくからです。えすぴーさんたちといっしょにきてくれました」
「SP?…そうなんだあ♪ アリスちゃんのどんな所が好きですか?」
あ、先生、ヒースの話をスルーした。そりゃ国内在住の外国人かと思ったら、回答が明後日の方向に飛んだもんね。
「アリスちゃんはかわいいし、みーちゃんのおかたづけをてつだってくれます」
おかたづけはおかたづけだよ?と話の進まない娘に焦れて、先生の視線がこちらへ飛んだ。幼児の行事なんて時間通りに行かないので、のんびり見えても先生の判断はものすごく早い。
「ぬいぐるみですけど、中に物を入れられる様になっています」
先生が納得した様に頷いてニッコリ笑うと、「アリスちゃんといっしょに毎日おかたづけ頑張ろうね」と話を締めて次の子の発表に移った。
◇◇◇
「アリスちゃんとおかたづけって、ちらかったものをなかにいれるっていみじゃないよ」
保育所を出て、発表会のご褒美という理由で買ったイカ串を食べながら帰路につく。
「そうよね、アリスちゃんのお腹にはレジャーシートを入れてるだけだから、遊ぶときにそれを広げて、片付けるときはそのままシートから滑らせておもちゃ箱にいれるだけだもんね」
「そうだよ。でもカッちゃんにはほかのつかいかたおしえてあげたよ、とってもきれいにおかたづけできたってよろこんでたよ」
…瑞希ファンクラブ会長ですか。
一体、何の片付けをしたのだろう?
そういえばカッちゃんも特大のうさぎのぬいぐるみ買ってたし。
あれだけの大きさがあれば、重要書類の1.2枚簡単に隠せるだろう。
私は一般市民だからあまり想像出来ないが、裏稼業の薬物や武器もたくさん隠せるだろう。
自分で使わなくても、敵対組織に忍び込ませて摘発させれば、あっと言う間に動きを抑えることが出来そう。
けど、中に入れるのがお片づけでないなら一体どう使ったのだろう。
「カッちゃんが、どうやったお片づけしたか知ってる?」
「ナイショだよ、あのね……」
女の子はナイショ話が大好きだ。そしてそれを仲良しさんに伝えるのも。伝える地点でナイショ話じゃなくなっているのは大いなる矛盾だ。
「カッちゃんはぬいぐるみだけじゃなくて、まねきねこもつかったんだって。くわしくはおしえてくれなかったけど、まいにちうごかしていたら、くみちょうさんがにゅういんしたんだって」
アリスちゃんが空をとんだり、歩きまわったら楽しいね、と言うのをヒントにしたらしい。
あと、ぬいぐるみにカメラと稼働装置をつけてダルマさんが転んだをしようと提案したらしい。
そういえば、どこかの社長が急に倒れたお陰で、カワサキ組に大きい仕事が回ってきたと聞いた。招き猫が飛んでくる幻覚や幻聴が出てきて倒れたと聞いたが、あの方も組長さんでしたか。
…そりゃ、夜中にダルマさんが転んだを始めるぬいぐるみや招き猫が毎日現れたら怖いわ。内部協力者がいたとはいえ、とんでもない掃除方法。
瑞希がハイハイできる様になった頃、午前3時頃に耳元で毎日笑い袋を鳴らされて心療内科通いをする羽目になった事を思い出し、心の中でどこかの社長さんの一日も早い回復を祈った。
親になるってことは、色々な経験をすることだと日々感じている瑞穂さんです(笑)
文脈に齟齬が出てたのでちょっと直しました。真夜中の耳元笑い袋は本当に心身ともに疲れます(泣)
ちなみに、カッちゃんの特大ぬいぐるみは、河崎さんの自宅リビングで、掃除道具ケースになっているそうです。