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ぱーふぇくと・かばー  作者: 小出毬子
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閑話 河崎組の雑談 その1

「中島の兄貴、葛城若頭。病院行かせていただきました!ありがとうございました!」

「おぅ健太、大した事がなくてよかったな」

「健太、若頭じゃない!専務と呼べ。うちの親父も、アレさえなけりゃいい男なんだけどなぁ〜」


 専務も社長の事を親父と呼んでるのは全力でスルーしろと、中島の兄貴が眼で伝えてくれる。

 見た目は超コワモテだけど、すげぇいい人なんだ。

 初めて土建屋のバイトに来た時は、すげぇ怖い人って思ってたけど、兄貴の推薦で表の社員にしてもらって約3ヶ月。

 でも、なんかみんなと馴染めなくて、隅にいたら兄貴が声掛けてくれて、ヤクザの組に誘われた。

 俺、清水健太も含め、河崎組全員がカワサキ組の社員となっているが、俺たちは普段は裏の河崎組事務所で控えている事が多い。

 忙しい時は現場に出て人間重機扱いだが、暇な時は研修という名目でここに来てもいい事になっている。


「そういえば、どうして神農堂の姐さんは、あんなに組長に強く出られるんですかね?」


 暑いので冷煎茶を淹れて、医者の帰りに買ってきた羊羹をいっしょに出す。

 羊羹は仕事中に抜けさせて貰った、詫びの気持ちで買ってきた、若頭もとい専務オススメの和菓子屋のちょっと高い奴だ。


「健太はまだ知らなかったか? 神農堂の姐さんは親父の2年先輩なんだぜ。産まれた時からの付き合いだしな」

「マナブ、社長と呼べ」

「社長ってそんなに若かったんですか?」

「おぅ、俺と同じ28だ」

「はーい、オレ中島学26歳。趣味は柔道。彼女募集中でーす」


 はあぁ、専務と社長が同い年⁉︎ 社長老けすぎでしょ?

 やべっ、社長は40過ぎだと思ってた。今まで歳聞かなくて良かった。

 そして中島の兄貴、合コン慣れしてるのは良くわかりました。つか、超コワモテのその顔からその軽い口調は危険です。(主に俺の腹筋がw)


「あと瑞穂さんに何度も迷惑かけてたから、俺も社長も頭上がらないし」

「そうそう、あと瑞穂さんが初恋だったとか言ってませんでした?」


 瑞穂さん?? 誰だよ、それ。


「神農瑞穂。みーちゃんこと瑞希ちゃんのママの本名」

「剣道4段だっけ?マジつえぇし、結構美人だし、生徒会長やってたから親世代に受け良かったし、本当に頭も良かったから俺たち世代のトラブルのほとんどは瑞穂さんに解決してもらいましたよね」

「みーちゃんが子供の頃の瑞穂さんそっくりで、社長がメロメロになってるのも今となっては笑えるよな」


 専務や先輩世代のアイドルというだけあって、学生時代を懐かしそうに語る2人はかなり饒舌だ。

 まるで冷煎茶に酒でも入ってたかの様だ。…入れてないよな、俺。


「そういやぁマナブ、社長の黒歴史w、今持ってたっけ」

「もちろんっす、翔平先輩。スマホで写真持ち歩いてます」


 なんすか、それ?

 つうか、専務は葛城翔平っていうんだ。モデル張りの長身とイケメンの専務にはぴったりの気がする。

 ともかく中島の兄貴のスマホを俺も覗かせてもらうと、どこかの壁に相合い傘が書いてあり、片方は神農堂の姐さんの名前で、片方は河崎勝利…社長か!

 12年前のクリスマスの日付も一緒に刻んであるって事は、社長は高1か。


「健太、これどこだと思う?表の事務所の正門だぜw いくら化粧タイルで隠れるからといっても、俺なら恥ずかしくてできねーよ」

「そーそー、ここに君との永遠の愛を刻むとか、恥ずかしい言葉を聞かされた俺の方が恥ずかしくて逃げたかったぜ。瑞穂さん、ドン引きしてたし」


 今までの話聞いていたら、俺でもわかる。薬屋を継ぐため猛勉強してたなら、養子に入ってくれない男と付き合う時間など欠片もないってこと。

 ましてや社長が高1だという事は…第一志望の大学受験前にそんなことされたら、俺なら殺すな。

 神農堂の姐さんも、「ごめん、色々と無理」と答えて、逆上した社長に金的一発食らわせて、さっさと図書館に向かったらしいが。


「まあ、その後すぐに嫁と付き合いだしたので、社長は忘れてるみたいだけどな」


 それは多分偶然じゃなく、神農堂の姐さんが裏で手を引いてると思う。

 見た目は真面目な美人理科教師だけど、話聞いてる限りじゃ、結構策士っぽいし。何より姐さん2人が物凄く仲良しなんだ、普通なら熱烈な初恋の相手なんて嫉妬するだろ?


「そして高校卒業後、すぐに結婚し男子3人に恵まれた社長は、事業も成功し、良き部下にも恵まれ、幸せに暮らしています。めでたし、めでたし」


 ん、いきなり話が終わったな。


「清水、大丈夫か」

「先ほど清水から報告受けましたが、全治1ヶ月、激しい動きは完治するまで避けた方がいいそうです」

「すまんな、みーちゃんの事になると歯止めが利かなくてな」


 一応、わかってるんですね。

 羊羹をひょいとつまんで食べた後、余った冷煎茶で飲みくだし、俺のお茶の入れ方を褒めた後、社長はふうっと息をはいた。


「で、ずいぶん楽しそうだったが、何を話してたんだ」


 社長から威圧感が流れ出した。葛城は眼を逸らした。中島は逃げ出した、しかし回りこまれた。

 ヤバい、誤魔化さないと。また医者に行く羽目になる。


「あ、あのですね、みーちゃんの可愛さはどこから来たのか探るために、神農堂の姐さんの昔話を聞かせて頂いておりました」


 俺、GJ。よかった、社長から威圧感が消えた。


「みーちゃんの見た目も可愛いが、やっぱりあの娘の最大の魅力はあの頭の良さだよ」


 女は男を立てつつ、手のひらで転がす位の度量と知恵がないといけないという、社長の女性感をしばらく拝聴することになったが、その隙に専務も兄貴も逃げ出した。

 社長の肩越しに、手を合わせてすまなそうに出て行く2人が見えたが、ここは見なかった事にするべきだろう。この恩は高く売れそうだ。


 けど、神農堂の姐さん。みーちゃんに向かって誰に似たんだかとかいつも言ってるけど、少なくとも中身はそっくりだと俺も思います。

登場人物

組長(かっちゃん)=社長 河崎勝利かわさきかつとし

若頭(ポチ)=専務 葛城翔平かつらぎしょうへい

兄貴=先輩社員 中島学なかじままなぶ

俺(包帯君)=バイト上がりの新入社員 清水健太しみずけんた

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