薬屋の娘
初投稿です。どうかよろしくお願いいたします。
二足のわらじという言葉があるが、業種によっては大変でないかも知れない。
まず、私。
本業は薬屋の三代目。
チェーン店のドラックストアに押されつつも、繁華街にあるという立地と、お得意様達とアルバイトに助けられて何とか生活は出来ている。
まぁ、商品やサービスで他店との差別化を図ったりと、それなりに企業努力はしているつもり。
家もあるし、薬剤師の資格だけは取らせてもらったので、最悪バイト生活でもなんとか親子3人暮らしていけそうと思いつつ、店を潰す日を極力先に延ばすよう頑張る毎日。
もう一つの仕事は占い師。
小学生の頃からの趣味が高じたモノだが、休みの日の短時間だけ店に入っている。
そろそろ5年程になるので、指名客もいるし、本業の顔をご存知のお客様は、予約もなしに直接薬屋の方へお見えになる。こっちにも都合があるので、本音を言えば勘弁していただきたい。
本業にも差し障るし、勤務先の店にも迷惑かかるので、迷惑料(笑)と特別料金込みで、店の料金の3倍以上をいただいているが、それでも週に1人位は薬屋に顔を出される。
まぁ、占い師なんかに頼ってるのを知られたくない方は一定数いらっしゃる訳で…大抵はご近所さんなので、あまり嫌な顔も出来ない。
納得されない方は、店のチラシを渡して、他の方にお願いするシステムにした代わりに、薬屋に来た方の売り上げは全て自分の懐に入れていいことになっているので、こちらもそこそこ稼がせていただいている。
年度末には確定申告している立派な青色事業者だ。脱税なんてしてないが、鑑定料をエステ料金として申告してるのは少しだけ罪悪感。
しかし、薬屋で申告する以上、エステのおまけに鑑定をつけるという形の方が馴染みやすいし、占いのお客様にもいいカムフラージュになっている。
まぁ、占いのお客様にとっては、鑑定ブースに入る=「個室でエステしてもらってる」という風に見えるので、隠れ蓑としては完璧だと思う。
本職と全く関係ない様に装っている、クローズド二足のわらじというところだろうか。
次は、フリージャーナリストの、一応私の配偶者。
数カ国語を話せるのを活かして、海外の仕事が得意らしいので、日本にはほとんど帰国しない。
…決して妻に会うのが嫌な訳ではないと信じたい。
一応というのは、奴の仕事柄あまり顔を見ることがなく、私と娘を除けば血縁のいない奴のために、法律上の家族をやってる代わりに、謝礼が毎月振り込まれてるという感覚が近い。
まさに、「亭主元気で留守がいい」を地でいく生活だ。
ただ、娘には甘々で「子連れ狼」の二つ名があるそうだ。
しょっちゅう仕事先に連れ回してたおかげで、正式な手段が無理でも、娘を使って高確率で何かコメントを取ってくる手段も含めてのあだ名らしい。
奴にもマスコミのアテンドという副業があって、それなりのお小遣いを稼いでいるらしい。
現地取材する時の繋ぎや事前準備をする仕事らしいが、本業のついでに出来る部分も多いので、意外と楽らしい。私から見ると仕事した分が必ず現金化される副業の方がいいような気もするが、フリージャーナリストの肩書きは捨てられないらしい。
とにかく人に危機感を抱かせない程度の容姿と物腰、馴れ馴れしくなる寸前の絶妙なコミュニケーション能力、少々の荒事なら自力で解決できる腕力というものを十二分に使える仕事をしているのは間違いなさそうだ。
奴の場合はオープンな二足のわらじと言えばいいだろう。
帰国中の今日は、保育園のお迎えという仕事をこなすため、娘の父親という三足目のわらじをはいてもらってる。
父親業は大好きなので喜んで行ってはくれるが、たまにしか会えないからと、寄り道しては余計な買い物をしたり、おやつを食べさせるのが最大の難点だ。
黒目がちの大きな眼に、日本人の子供としては高めの鼻筋の通った鼻、幼児らしいぽっちゃり感はないが、長い手足に引き締まった身体と、娘はタレントレベルに可愛らしい女の子なので、可愛くして見せびらかしたい気持ちは分からないでもないが。
親バカと言われるのは承知の上だが、町内のアイドルでもあり、ファンクラブもあるらしいので、人様にも高レベルで可愛いと思って貰えてると思う。
「ママ、ただいま〜、このなかにね、おみやげもらった〜」
店の入り口から小走りで私のいる所まで来ると、保育園の指定リュックを横に2、3回振って、ニコニコと嬉しそうに報告に来た娘の後ろにいた奴をジロリと睨みつけた。
「で、今日は服?、それともお菓子?」
娘の頭を撫でながら、視線は奴の方へ向けて呆れた様な声で問いかけた。
「やだなぁママ、昨夜怒られたばかりだから何も買ってないって」
ニコニコというより二パッという感じの、屈託のない子供の様な笑顔だが、偽証の前科は数えきれない程あるのでもう少し探りを入れようと考えてると、奴は言葉を続けた。
「本当だよ、たまたま土建屋のカッちゃんに会って、みーちゃんにおみやげだっていただいたんだよ。ねえ、みーちゃん」
「ねー」
土建屋のカッちゃんとは、リフォームからビル建築まで請け負う、同じ町内にあるカワサキ組の社長だ。彼は娘のファンクラブの会長を自称していて、父親以上に甘やかして下さるので、確かにお土産はよく頂く事がある。
そういえば旅行に行ってたって、奥様が言ってたっけ。
「みーちゃんがほしがってたものだって。おうちにつくまであけちゃダメっていわれたから、ここまでガマンしたよ」
「ここはまだお店の中だからもう少しガマンしようね、ん〜みーちゃんは可愛くてお利口さんだなぁ」
えへへと笑う娘の笑顔と、その娘と視線の高さを合わせて頭をわしゃわしゃと撫でながら、今すぐ溶けそうな笑顔を見せる奴の姿は、心和む光景ではある。
が、ここで油断してはいけないのが我が家の常識。
「みーちゃん、何を頂いたのかな?お客さんもいないし、ママに見せてくれるかな?」
「んー、くみたてしきだからおみせでひろげちゃだめだよといわれたー」
無邪気に微笑む娘の父親を睨みつけると、途端に眼を逸らし狼狽の色がありありと出た。
アヤシイ。
「すこーぴおん、くれたの〜。みーちゃんでもカンタンにあつかえて、リュックの中に入るからとってもべんりだっていってたよ」
「…どんな時につかうのかな?」
「しょうちゃんが、みーちゃんいじめるから、ダメっておしえるのにつかうー」
…確かにそれを使ったら、しょうちゃんは娘を二度といじめないだろう。私の想像通りの品物ならば。
「ねぇ、パパ。勘違いなら笑ってくれていいけど、すこーぴおんって名前のサブマシンガンあった気がするけど…」
「ママ、せいかーい!すごいすごい!」
「みーちゃんをいじめるなんて、命をもって償うべしと、カッちゃんが探して来たんだよ」
パチパチパチパチと2人の拍手の中、私は激しい頭痛に襲われた。
みーちゃんのキャラが暴走気味で、どう制御すればいいのか悩んでます。