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汝、不屈であれ!  作者: Allen
第4章 七彩の学友
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069:クラス分け











 学生証を片手に、掲示板に張り出されたクラス分けの表を確認する。

 九つある組のうち、私はどうやら三組に割り振られていたようだ。

 この組分けについては、高校の一年度では個人の魔法の才覚に合わせて割り振られているらしい。

 つまるところ、総魔力を表す魔力量、体内魔力の制御を表す魔法制御力、そして体外魔力の制御を表す魔法感応力の三点が評価対象になっているのだ。

 今更ではあるが、私は魔力量については人並み以上には増やせているし、魔法制御力については一角のものを持っているという自負がある。

 だが、魔法感応力については相変わらず壊滅的だ。

 これらの能力には魔導士資格と同じように五級~特級までの等級が割り振られているが、私の魔力量は一級、制御力は特級まで上り詰めているものの、感応力は五級。即ち素人以下だ。

 むしろ、この状況でよく三組に入れたというものだろう。だが、どうやら初音は納得がいかなかったらしい。



「そんな、仁と別々のクラスだなんて……」

「いや、初音。アンタ最初っから分かってたでしょうに。仁の能力じゃ流石に一組は無理でしょ」

「でも、仁はあんなに強いのに!」

「その辺が加味されるのは二年生からなんだから、一年我慢しなさいっての」

「うう……詩織さん、仁のこと、よろしくお願いね」

「あはは……うん、分かったよ」



 言うまでもないが、凛と初音は一組だ。

 四大の一族であり、尚且つ努力家な二人であれば、一組にいることなど当たり前であると言えるだろう。

 対し、一般家庭の出である詩織は、私と同じ三組だったようだ。

 四大ほどではないが、魔法使いの家系がそこそこ在籍しているクラスに属しているのだから、才能もそこそこあるのだろう。

 もしかしたら、親が能力の高い魔法使いなのかもしれない。その辺りは追々話が聞けるだろう。



「残念だけど……仁、また後でね」

「ああ。代表挨拶、楽しみにしているぞ」

「っ……うん、期待しててね」



 私の一言に表情を輝かせた初音は、先ほどの沈んだ様子はどこへやら、弾んだ足取りで一組へと向かっていく。

 苦笑した凛は軽く手を振りながらそれに続き、私と詩織はそれを笑いながら見送っていた。

 とは言え、いつまでも見送っていても仕方ない。私は詩織と頷き合い、共に三組の教室へと移動を開始した。



「さて、それでは移動するとしようか」

「はい、こっちですよ」



 校舎が違うとは言え、ある程度勝手は知っているのか、詩織は先導しながら歩き出す。

 周囲には、私たちと同じように新たな教室へと移動する一年生達の姿がある。

 この真新しい校舎で、これから三年間、魔導士としての知識と技術を学ぶ級友たちだ。

 とは言え、そうやって仲間意識を持っている者たちが、果たしてどれほどいるものか。

 そういう意味では、この羽々音詩織と言う少女は非常に貴重な存在だろう。

 あの凛と初音が、揃って気を許している存在なのだ。少しでも打算や下心があれば、あの二人は距離を置いた付き合いをしていたはずだろう。

 一体、この少女はどのような人物なのか。少々気になり、私は彼女に声をかけていた。



「羽々音さん、かな。少し、話をしても?」

「あ、どうぞどうぞ。それと、呼び方ももっと適当でいいですよ。凛ちゃんも初音ちゃんも、私のことは名前で呼んでますから、同じような感じで大丈夫です」

「そうかな? では詩織と呼ばせて貰おう」



 中々、距離感の近い少女である。

 凛や初音から色々話を聞いていたのだろうが、それでも初対面の私に対してここまで気を許すと言うのは少々意外だ。

 この年頃の男子諸君からすれば、この気安さは自分に気があるのではと勘違いしてしまうタイプのものでもある。

 まあ、その辺りに関しては、近寄りがたい凛や初音が防波堤になっていたのかもしれないが。



「君は、凛と初音から私のことを聞いていたそうだが……具体的にはどんなことを話していたんだ?」

「女の子同士の話を訪ねちゃいます、灯藤君?」

「好奇心は強いものでな……しかし、詩織。私に対して敬語を使わんでも大丈夫だぞ? 一応、これでも同い年なのだからな」

「あー、あはは……ちょっと、慣れるまではこのままで。何だか大人の人と話してる感じで、タメ口だと落ち着かないんです」



 やはり、彼女は直感的に私の内面部分を見抜いている様子だ。

 好ましい洞察力ではあるのだが、それだけに私に対する印象と言うものは気になる。

 多かれ少なかれ、彼女は私に対する先入観を持っているはずだ。

 もしも間違った印象を抱いているのであれば、早い内に訂正しておいた方がよいだろう。



「それに、あの二人はどうにも私に対する印象が独特だから、君が妙な誤解をしているのではと危惧している」

「あー……まあ、二人とも灯藤君については話が噛み合わないことがよくありましたから」



 やはりそうだったか、と私は思わず嘆息を零す。

 あの二人は、私と接触してきた時間がそれほど長くないにもかかわらず、私に対して随分と視線を向けてきている傾向にある。

 しかも、片や兄弟として、片や婚約者として、近くはあるが互いに異なる距離感を持っているのだ。

 十年と言う長いスパンを置いた結果、互いの先入観を元に自己解釈に基づいた像が築かれている可能性は大いにあるだろう。

 しかし、女同士の話を打ち明けろと言っても、中々に抵抗が強いのは事実だろう。

 軽く肩を竦め、私は詩織に対して問い直していた。



「では、実際に話してみた感想はどうだ? 聞いていた話と、私の印象に、何か食い違いはあるか?」

「うーん……正直、まだそこまでちゃんとは分からないですけど」



 まあ、会って数分程度の相手だ。それも仕方ないだろう。

 いかなる観察眼を持っていようと、流石にそれほどの短い時間で本質を見抜けるような人間などいるはずがない。

 だが、それでも幾許かの印象を得たことには違いないのだ。

 果たして、凛と初音の思っていた私と、詩織が感じ取った私にどのような乖離があるのか。

 胸裏に抱く期待を知ってか知らずか、詩織は私の望んだとおりの内容をぽつぽつと話し始める。



「今のところだと、二人が考えていたことって、どちらも合っていた気がするんです」

「ほう? 二人の話は噛み合っていなかったのだろう?」

「あの二人の噛み合っていない点は、灯藤君の印象を元に、自分がどのように感じているかっていう点でしたから。でも結局の所、二人とも灯藤君の想っていることをちゃんと受け止めていたみたいですよ」

「……ほう?」



 僅かに、息を飲む。

 心を見透かされているようで、しかし不快感を伴わない感覚。

 それは、自分を理解して貰っていると思えていることに他ならない。

 凛と初音が心を許しているのは、きっと詩織にこのような点があるからなのだろう。



「灯藤君は、無理をしてでも二人のことを大切にする人なんだなって、そう思っていました。今日の反応から見ても、灯藤君が初音ちゃんと凛ちゃんを大切に思っていることはちゃんと分かりました。だから、安心してください」

「……成程、大した娘さんだ。あの二人が得がたい友人を得られたことを、誰よりも君自身に感謝しておこう」



 こうも天然での人心把握と人心掌握に長けているとは、私も思ってもみなかった。

 彼女はもしかしたら、思った以上の人材なのかもしれない。

 しかしながら、初音たちの友人ということもあり、色々とやっかみも多いだろう。

 少し、周囲に対する警戒が必要になるかもしれない。



『……リリ、この子のことは、少し気にかけてやって欲しい。一人目の人材候補だ』

『ん。幸先がいいね』



 リリに任せておけば、彼女の安全は十分に確保できるだろう。

 内心で頷いていると、詩織は私の胸中を他所に、苦笑気味に声を上げる。



「でも、気をつけてくださいね、灯藤君。これから、色々と大変でしょうから」

「ふむ? 大変、と言うのは?」

「だってあの二人、学校ではとても人気なんですから。凛ちゃんの弟で、初音ちゃんの婚約者だなんて、皆からやっかみを受けちゃいますよ」



 それは私よりも君が気をつけた方がいいのではないか、とも思ったが、口には出さないでおく。

 恐らく、凛あたりが色々と周囲を牽制しているのだろう。その辺りの努力を伝えては、彼女が凛に遠慮してしまうかもしれない。

 まあ、とは言え、私のやることに変わりはない。私は変わらず家族を護るだけなのだから。



「何、自分の身程度は自分で護れるさ。何しろ、山育ちなものでな」

「あはは、そういえばそうでしたね」

「無論、その上で凛と初音も護るつもりではあるが――あの二人にとって大切な人物である君のことも、気に留めておくことにしよう」

「それは流石に大げさですって」



 くすくすと笑う詩織の様子に苦笑する。

 彼女のこの言葉が、果たしてどこまで事実であるのか、気を配っておかねばならないだろう。

 と――そんな会話を続けているうちに、私たちは三組の教室に到着していた。



「お、ここが三組か。ふふ、もう来てるかな?」

「おや、知り合いの名前でも見つけたのか?」

「はい、中学時代も仲良くしてくれた人で、初音ちゃんや凛ちゃんほどじゃないですけど、結構仲良しなんですよ」



 どうやら、凛たちとも知り合いの人物になるようだ。

 どのような人物なのかと想像している内に、詩織がドアをスライドさせ、一年間の教室となる部屋を開く。

 まだ時間も早いためか、まばらな生徒たちの中、詩織は一人の人物に目をつけて嬉しそうに声を上げていた。



「あ、いたいた、久我山君!」

「やあ、詩織ちゃん。そろそろ来る頃だと思ってたよ」



 詩織に名前を呼ばれたのは、見た目は平凡な、だがどこか周囲とは乖離した印象を覚える少年だった。

 あまり際立った特徴はないのだが、その立ち振る舞いや雰囲気から、どこか大人びた印象を受ける。

 それがいかなる要因によるものなのかは分からないが、彼もまた少々非凡な人物であるようだ。

 久我山と呼ばれた少年は、詩織に対して機嫌よく挨拶をした後に、私の方へと視線を向ける。



「それで、彼があの灯藤君かな?」

「あ、さすが久我山君、話が早いね。そうだよ、この人が灯藤君」

「あはは、朝からあの水城さんがラブシーンをかましてたって話題になってたからね。僕も気になってたんだ」



 どうやら、中々に耳の早い人物であるらしい。

 凛や初音との付き合いも持ちながら、しかし周囲の学生達との付き合いも維持している。

 詩織のように深く相手に関わるようなタイプではなく、ある程度距離を保ちながら人間関係を構築できる冷静さがあるようだ。

 そして、そんな人間関係を利用し、周囲の情報収集を怠らない優秀さ。

 彼は、中々に抜け目が無い仁物であると言えるだろう。

 ……まあ、初音のことが話題になりすぎていたという可能性もあるが。



「始めまして、灯藤君。僕は久我山雪斗。呼び方は適当でいいよ。男子同士仲良くしようぜ?」

「肩身の狭い思いをしていたのかな? では、とりあえず久我山と」



 女所帯の中に男一人と言うのは中々に居心地が悪いことだろう。

 まあ、彼はそれほど距離が近かったわけではないようだが、それでも会話に加わるのは中々難しかったはずだ。

 私としても、彼のような人物がいるのは大変助かる。仲良くしておいて損はないだろう。



「凛や初音が世話になっている。今後も、良き友人として付き合ってくれたら幸いだ」

「あはは、僕としても助かることは多いからね、お互い様だよ。僕は中学からいたし、何かあったら聞いてくれよ」

「助かる、感謝しておこう」



 にこやかな久我山の言葉に、私は小さく笑みを浮かべて頷く。

 確かな善意と――その中に含まれた、僅かながらも強い打算の気配。

 どうやら、彼は詩織のようにただの善意での付き合いと言うわけではないらしい。

 だが、それでもこちらを利用しようとするような悪意の気配は皆無。もしかしたら、彼も何らかの事情を抱えているのかもしれない。

 何か事情があるのであれば、今後彼の方から接触してくるだろう。

 それに――



『……ご主人様マスター

『ああ、気づいているよ』



 リリの警告に、私はちらりと扉のほうへ視線を向ける。

 クラスないではなく、外から感じる強い視線の気配。

 その辺りから感じる魔力は、四大ほどではないにしろ、学生にしてはそこそこ強力な魔力だ。

 果たして、私に対してどのような用事があるのか――少なくとも、ただ挨拶をしたいという訳ではないだろう。



『何にしろ……退屈はしない学生生活になりそうだ』

『今更じゃのう。お主の人生に、退屈するような時間など無かったじゃろうに』



 千狐の言葉に、今度は口元まで苦笑を零しながら、私はこれからの学生生活に思いを馳せていた。





















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