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汝、不屈であれ!  作者: Allen
第6章 金瞳の観測者
112/182

112:ブレスレットの真実












「あのブレスレットは、何と言うか……子機みたいなものなんだと思います」

「子機? どういうことだ?」

「要するに、大本になるような何かが別にいる、っていうようなイメージですね」



 詩織の語るブレスレットの概要に、私はわずかに視線を細めて眉根を寄せる。

 つまるところ、あのブレスレットが子機であるとするならば、大本となる親機が存在するということだ。

 果たして、それがいったいどのようなものなのか――まずはそれを突き詰めて行かねばならないだろう。



「何故、そんな大本が存在すると判断したんだ?」

「あのブレスレットは、外部にある何かと繋がっていました。そこから、魔力の供給と演算補助を受けているような感じです」

「魔法が強化される仕組みはそういうことか……その大本を断てば、魔法の強化もストップするというわけだな」

「まあ、大本の方を直接見たわけじゃないので、断言はできませんけど……」



 詩織の魔眼に見えるのはあくまでも目視できる範囲の術式であり、実際に見ていない物品の術式までは把握しきれないのだろう。

 まあ、それは今のところどうしようもない話だ。

 とりあえずは、分かる範囲で話を進めていくしかないだろう。



「で、それに加えてなんですけど……ブレスレットを装備していると、普段使っていない余剰魔力がその大本の方へ、逆に流れていくみたいです」

「魔力を……集めているってこと?」

「人数を増やしてる理由はその辺りにあるのかもね。使ってる人間が増えれば増えるほど、その大本の方には魔力が溜まっていくわけだし」



 疑問符を浮かべた凛の言葉に、久我山が肩を竦めながらそう告げる。

 その意見に関しては、私もおおよそ同意だった。

 装備した人間が増えれば、その分だけ大本の方に多くの魔力が流れていくことになる。

 そして、普段は溜めているその魔力から、一部を取り出して魔法を強化しているのだ。

 それに加えて演算の補助を行うことにより、術式の制御力を高め、高い威力の魔法を生み出しているのだろう。

 ここまで聞く限りでは、かなり便利なアイテムといった状態だ。

 だが――



「……で、まだ何かあるんだろう?」

「はい……ここからが問題なんです」



 先ほど詩織が語った内容は、詩織が危惧しているという理由には弱い。

 つまるところ――まだ何かあるのだ。それも、飛び切り厄介な性質が。



「大量の魔力を一か所に集めて、必要な時に必要な分を子機側に渡す道具……なんですけど、その子機側に渡すタイミングで、魔力に対して何かが混ざるようになっていたのが分かりました」

「大本からの魔力に何らかの要素を混入させているのか。その『何か』というのは分かるのか?」

「具体的に何、と言うことはできないです。ただ……それのせいで、装備している人たちの精神に影響を及ぼしているのは確かです」



 詩織の言葉に、私は視線を細めて黙考する。

 久我山の話の中に出てきていたが、あのブレスレットを装備していた新田は、仙道のことを様付けで呼んでいたらしい。

 とてもではないが、四大の一族の従者でもない一般の学生が、同級生を相手に様付けで呼ぶことなどまずありえない。

 もしも彼女の言う『精神への影響』が、その変質を示しているのだとしたら――



「使っている人間を徐々に心酔させていく……信者を生み出している? 何にせよ、精神への汚染は危険な性質だな」

「古代兵装でもなきゃ、精神異常を発生させるようなアイテムなんて存在しないでしょうけど……まあとにかく、詩織の言うことが確かなら、親機とやらを持ってるのはあの仙道ってことになるのよね? だったら話は早いわ、とっととぶちのめして取り上げましょう」



 ゴキゴキと指を鳴らしながら、凛は真顔でそう告げる。

 どうやら、詩織に危害を加えられたことを腹に据えかねている様子だ。

 まあ、流石に問答無用で殺す、というレベルにまでは至っていない様子であったが。

 だが、その言葉に対して、詩織は慌てた様子で口をはさんでいた。



「あっ、違う違う、凛ちゃんちょっと待って!」

「あ? 何がよ、あんな連中を庇う必要はないわよ? どのみち破滅は確定だから」

「そ、それも止めて欲しくはあるんだけど……そうじゃないの! 仙道君が持っているのは、親機じゃないの」

「……どういうことだ?」



 詩織の言葉に眉根を寄せて、私は詩織にそう問いかけていた。

 あのブレスレットを持つ者たちは、確かに仙道の信者のような状態になっていたと思うのだが。

 そんな私の疑問に対し、詩織は首を横に振りながら答えていた。



「確かに、仙道君の持っていたブレスレットは、他のものとはちょっと違ってました。ただ、あれは親機じゃなくて、中継機みたいな感じです」

「中継機……ということは、ここの学生たちから集まった魔力は、一度仙道に集まってから別の場所に行っていると?」

「はい、そういうことだと思います。ほかのブレスレットより強い術式だったのは確かですけど……それでも、あれが親機ということはありません。だって、あそこから更に別の場所に繋がってましたから」

「つまり、黒幕は別にいるという訳か」



 彼が全ての元凶でなかったことには少しだけ安堵しながら、私はさらに思考を巡らせる。

 彼が持っているものが親機ではなかったとして――問題は、その親機そのものが一体どこにあるのかということだ。

 今回の問題は、その親機を確保しない限りは解決しないのだから。



「詩織、その中継機を見たときに、それがどこに繋がっているかは分からなかったか?」

「そこまでしっかり見た訳じゃなかったので……それに私の目は術式を見ることはできますけど、魔力そのものを見れるわけではないですから」

「となると……私が《掌握ヴァルテン》で解析するか、リリが直接解析するかのどちらかだな」



 私たちは術式の詳細を読み取ることはできないが、魔力がどこかに送られているのであれば確認することは可能だ。

 流石に、ちらりと見た程度でそれを確認することは不可能なのだが。

 やはり、その中継機とやらを確保する必要があるだろう。



「……かなり危険に踏み込む必要があるな」

「本格的にケンカを売るわけか。やるんだろう、灯藤君?」

「ああ。慎重さを失うわけにはいかないが、それでも最早踏み込まねばならない状況になってきている」



 物が古代兵装であることは確定、そしてその性質もある程度判明した。

 厄介な代物であり、その親機の性質まで完全に判明したわけではないが――ある程度は予想もできる。

 この状況ならば、動くことも可能だろう。

 ならばまずは――と、具体的な行動方針を決めようとしたちょうどその時。

 私の仕事用の携帯が、着信音を鳴り響かせていた。



「ぬ……済まん、ちょっと待っててくれ」



 番号は室長のもの。さらに新しい情報があるのかと、私は皆から離れつつ通話を開始していた。

 今は少しでも、情報を手に入れたい所なのだから。



「はい、こちら灯藤」

『ああ、私だ。例のブツだが、こちらである程度解析が完了した。その情報をそちらに伝えておく』

「思ったよりも早かったですね。それで、何が?」

『まずあの品だが、貴様の睨んだ通り、確かに古代兵装だ。どれだけ少なくとも数千年前――下手をすれば、人類種の発生以前の品だな』



 人類発生以前となると、リリもまだ活動していた時期である可能性もあるが――地域の問題などもある。

 リリが覚えていないという以上、それがどのような形で使われていたのかを遡ることはできないだろう。

 ともあれ、これはほぼ既知の情報だ。他に何かないのだろうかと、私は室長の言葉に耳を傾ける。



『データベースで過去の記録を漁ってみたところ、国外ではあるが、これと同種の古代兵装によると思われる事件が記録されていた』

「ほう? それは興味深いですね」

『地域は中東の国境周辺。そのあたりで起こったカルト宗教による大規模な武力抗争だ。詳しい記録は後でデータで送るが、信者が全員共通の腕輪をつけていたこと、そして全員が異常なまでの威力の魔法を使用していたこと……ここまでを鑑みて、恐らく同一の品による事件だろうと推測される』

「……成程。確かに、その可能性は高そうだ」



 詩織の話と擦り合わせてみても、違和感は感じない。

 恐らく、そこで用いられた腕輪と、今回の古代兵装は同じか――あるいは同種の品なのだろう。



「では室長、今回連絡してきたのは――」

『ああ。これには早急に対処する必要がある。放置すればするほど、手が付けられなくなる可能性が高い』

「では、今すぐに?」

『そうだ、貴様は仙道家に向かえ。関係者は全員捕縛。この際だ、腕を斬り落としても構わん』



 室長の言葉には納得しつつも、私は眉根を寄せていた。

 こちらとしては親機の位置が確定してから向かうつもりだったのだが、『八咫烏』の作戦となれば即座に対応しなければならない。

 しかしながら、こちらを放置することもできないだろう。親機の位置の確定はした方が安全だ。

 となれば――



「室長、今回の件ですが、すでに私の身内が事件に巻き込まれています」

『……魔養学で広まり始めていたのだったな。貴様の身内というと、やはり彼女らか』

「ええ。彼女らの力を借りるのは問題ありませんか?」

『構わんだろう。と言うより、四大の一族が独自裁量で動いた場合、こちらから即座に止められるものではないからな』



 四大の一族は、どちらかと言うと独立組織といった立ち位置にある。

 立場としては精霊府の方が上なのだが、特権を持つ四大の一族の動きを止めるには、それなりに上の立場からの命令が必要になるのだ。

 そういうものほど、得てして出すのに時間がかかるものでもある。今回の場合、止める理由も薄い上に、止めきれるような時間もないということなのだろう。



「分かりました。こちらで独自に調査をしたところ、どうもあの古代兵装には子機、中継機、親機のようなものがある様子です。とりあえず、こちらで中継機を一つ潰してみます」

『ふむ、成程な。効果によっては優先的に狙うのもありか』

「まあ、今はまだ何とも言えませんがね」

『了解した。こちらからも別の隊員を動かすが、距離的に一番近いのは貴様と羽々音だ。間に合うかどうかは微妙なところだな』

「承知しました、最善を尽くしましょう」



 『八咫烏』の隊員は決して数が多いとは言えないし、それが全国に散らばっていれば一か所の密度も薄くなる。

 それでも問題ないほどの強力な戦力である、と言うのもまた事実なのだが。

 ともあれ、室長との通話を終わらせた私は、携帯を懐に仕舞いつつ皆の方へと戻っていた。



「魔法院の方も状況を把握しつつある。時間が惜しい、早急に彼らに仕掛ける必要がある」

「ふぅん。なら、さっさとあの仙道を潰すとしましょうか」

「ああ、待て凛。お前は、私と共に仙道の本家に向かって欲しいんだ」

「うん? 何よそれ?」



 怪訝そうな表情で私を見つめる凛に対し、軽く肩を竦める。

 この場における最大の戦力は間違いなく凛だ。彼女の力を借りられれば、かなり確実性が増すだろう。

 正直なところ、『八咫烏』の仕事に巻き込むのは私としても気が引けるところではあるのだが――今更凛を放置することは不可能だ。

 自分から何が何でも首を突っ込んでくることだろう。



「仙道家の人間に対して捕縛命令が出た。要するに、私は親機があるであろう場所を叩かなければならないということだ。できれば、凛に付いて来て欲しい」

「……まあ状況が状況だし、それは構わないけど。でも、仙道のことはどうするのよ?」

「それは……初音」

「うん、私がやればいいんだよね、仁」



 私が声をかけると共に、初音は柔らかな笑みと共に首肯していた。

 私と凛が出る以上、初音を放っておくこともできない。

 というより、何も指示しなければ、彼女は私たちと共に仙道家へと向かってくることになるだろう。

 一応、立場上では私は凛にも初音にも命令を行うことはできない。

 まあ、今回は二人とも納得しているため、特に異論もない様子ではあったが。



「初音は仙道の捕縛と、中継機の確保を頼みたい。そして久我山、出来る限りでいいから、初音のことを手伝ってやってくれ」

「はいはい、奥さんの護衛も部下の仕事だよ。って言っても、僕の方が圧倒的に弱いわけだけど」

「目端の利くお前の感性は信頼しているさ。大変だとは思うが、頼んだぞ」



 久我山は確かに戦闘能力は高くないが、その狡猾さは私以上だと言える。

 同格どころか、格上相手でも手玉に取って見せるかもしれない。

 初音が傍にいればフォローもしやすいだろうし、敵も仙道を除けばそこまで強いわけではないだろう。



「よし……詩織」

「は、はいっ! 私は何をすれば!?」

「いや、お前は四大の一族ではないんだ、無理に戦う必要なんてない。とにかく、お前のおかげで、早く行動できるようになったんだ。後は、お前の期待に応えるとするさ。期待して待っていてくれ」

「っ……ありがとう、灯藤君」

「礼を言うにはまだ早いがな。さて……では、行動開始と行こう」



 不安は残るが、やらなければならない。

 覚悟を決めて、私は戦場への一歩を踏み出していた。





















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