プロローグ
中世風の農村には似つかわしくない中華風の鎧を纏った長身の男が、真っ赤な馬を走らせて二人の青年……片方は木の椅子に座っているものの、ひ弱でとても覇気など感じられないような、平凡な容姿の黒髪の青年と、椅子の傍らに立つ何色にも染められていない白糸のような髪でどこか達観したような表情をした女性的な容姿の少年だ……の元へとギリギリまで馬を走らせ駆け寄った。
「配下の者によれば、多数の豪族……いや、貴族が蜂起し、突然現れて王を名乗った貴様に反旗を翻したようだ。劉禅、敵の数は一万と四千、対するこちらの戦力は……千と百人分、かなりの劣勢だ」
「一騎当千と名高い呂布殿であれば、何か策があれば突破できるのではないのか?」
黒髪の青年が長身の男に……呂布に対して玉座に座ったままで問いかけた。
「策、か……貴様がおとなしく縄につくのであれば村の住民の命は助かるな」
「た、戯言とはいえ、少し……いや、かなり冗談が過ぎるのではないか?」
「確かに……劉禅さんがおとなしく捕まってさえくれればボクも策がありますね」
「……呂布殿、出雲殿、それは問題の無い策なのであろうか?」
配下に縄を持ってこさせる呂布とそれを見守る白髪の少年を見て早速逃亡を企てていたが、呂布が睨み付けるとおとなしくなった。諦めたとも言えるが。
「それで、いったいどういう策を考えている? 私を縛り、その後は」
「民を生かします」
「貴様はどうにかして生き延びろ」
「無策か!? 策があるというのは嘘だったのか!?」
自分より身長の小さな出雲につかみ掛からんとする劉禅であったが、その出雲にさえ軽くあしらわれ、縄を持ってきた部下によって縛られることとなった。
「とにかく、人質役……お願いしますね」
「心配せずとも、後で助ける……つもりだ」
「つもり……だと!?」
不安しか齎さないその言い方に睨み付ける様な視線を向けようとしたが、呂布の肩に担がれ、呂布の顔を見ることさえままならなかった。
「助けてくれ! 私に危機が迫っているぞ! 呂布殿がご乱心だ!」
「黙れ! 俺を信じられないのか!」
「……呂布殿」
体よく騙されているという事に出雲は気づいていたが、あえて口には出さなかった。董卓や丁原、そして劉禅の父親である劉備のようなことにはなりたくなかったからだ。
今でこそ必死の説得によって一応信頼できるという程度にはなったのだが、前科がありかつ完全に信頼する程ではないと思っている以上、万が一にとはいえ裏切られる要素は徹底的になくしていかねばならない。そう考えての選択だった。
「呂布殿の嘘つき! 大馬鹿者! INT31! 武力しか持ってない阿呆!」
かつて服であったぼろ布を纏っている劉禅が、農民から衣服を受け取りながら呂布に吠えるように言った。
「阿呆はどちらだ、阿斗! 貴様が落ち着いていれば俺も強行突破などという面倒な手を選ばなかったのだぞ! 分かっているのか!」
「うっ、それは……だが呂布殿も」
「何に文句がある? 作戦を伝えなかったことか? 貴様をきつく縛ったことか? 覆面をつけて忍び込んだことか?」
「全て! 策とはいえ分かっているのであれば」
「策だからこそ伝えなかった……ですよね、呂布さん」
「当たり前だ。この異国の地にて、真に信用できるのは己のみ……いつどの農民が金、名誉、女の魅力に誑かされ、裏切るか分かったものではない。劉禅、貴様もかつて君主であったのならば分からないのか?」
分かったら今後気をつけろと、睨み付けながら言った呂布に対して、劉禅は震える声で反論した。
「た……民を信じるのが間違いだと……」
「間違っては居ませんけど、余りに過信しすぎるのは間違いですね。あの状況、万が一に裏切られ、村人に囲まれてしまえばその時点で詰みでしたし。とはいえ……繰り返すようですけれど、やっぱり小国であるうちは村の人達を信じるべきですね。劉備さんも最初は」
「その名を出すな!」
「…………」
劉備の……呂布は自身の仇、劉禅は比較される自身の父親……名前を聞き、呂布は怒り、劉禅は無言で不快感を露わにした。
「…………すみません、口を滑らせてしまいました」
「ふん……劉禅、しばらくは豪族共……いや、豪族とその下に居る農民を貴様が指揮して束ねることに専念しろ。その間俺は……この国で強い奴を探す」
そう言って呂布は椅子に立てかけてあった檜の棒を掴み、頭上で振り回した。
「……やはり、重さが足りないな」
「……当分はそれで我慢してください。この世界はかなり鉄が貴重らしいので。それに……この世界に人以外を……三国志の時代の人以外を持ち込むのはある人に禁止されているので」
だから諦めてください、と出雲が言った。
呂布は無言で二人に背を向け、強者を探すべく馬に乗り村を出て行った。
事の起こり……出雲が劉禅、そして呂布と共に異世界に訪れ、群雄割拠の大陸を統一する事になったのはこの戦から遡る事一月前……
劉禅……三国時代の蜀二代目皇帝にして、蜀が滅亡した際の皇帝。三國志の作者からの扱いが蜀の人物としては割と酷いが、一応「白い糸は染められるままに何色にも変ず」と言われ、蜀末期の人材不足のせいで暗君となったという旨のフォローをされている。
呂布……後漢末期の武将で、当時最強の武将。義理の父となった人物を2度斬り、更には劉備の部下になった際にも裏切ったなど、裏切りのイメージが強い。また、戦略ゲームでは智力が低い事が多いために、脳筋のイメージだが別にそんなことはないらしい。最期は、下ヒでの戦いに負けて曹操に降伏するも劉備の進言で縛り首になった。
暴虐無人な彼であったが、陳宮、高順、張遼らといった良い部下には恵まれていた。特に後者ふたりは、和久名の主観的となるのだが、義に篤い将でどうして呂布に付いてきたのかが気になる程である。
イズモ……オリジナルキャラ。身長150センチ弱、銀髪ショートヘアーのひよっこ神様。
いわゆる劉禅側のゲームマスターの役をやっている。
Q.赤兎馬はどこから調達してきたの?
A.馬は拾った