テストで高得点を取るべく黒魔術の儀式を行っていたところを隣の席の人に目撃されちゃった件
……ふ。
……ふふ!
高校生最後の定期テスト、今日もいつものようにやってやるんだから!
黒魔術を!
……はあ、二年前からやってる事だけど、未だに緊張するのよね、これ。
……と、いうか、いっつも暇なのよね、これ。
優等生君が解答を書き終わるまで待たないといけないし。……3年になってからはテストの時は隣の席だし、しかも一番後ろの席だから、カンニングをしようと思えばカンニングもできるんだけど、バレたときのリスクが大きすぎるし、効率が悪いわ。……うん、カンニングをする人はバカよ。バカ。
……さて、まだちょっと早いけれど、魔法陣でも書いておこうかしら。手を動かしていないと疑われるしね。
解答用紙に円を描いて……これをこうやってこう。
……ふー。我ながらかんっぺきな魔法陣を描けたわね!
……さて、優等生君の手が止まるまで待っていましょうか。
……と、いうか、優等生君、いつもの事ながら早いわねー。一度も手が止まらないもの。古文のテストよ? これ。問題文はどうやって読んでいるのよ!
……あ、書き終わったみたいね。
さて、やりましょうか。
シャーペンの先端を手首に突き立てて、思いっきり、刺す!
ふふ。並の人間にはこれすら無理でしょうね! けれど、私にはできるわ!
だって私、痛いの好きだもの!
……ま、痕が残らないからできるんだけどね。いくら痛いのが好きだと言っても、傷痕が残るならやらないわよ、こんなの。世間の目も気になるし。
……そして、シャーペンを思いっきり、縦に、引っ張るッ!!
「……ッ!」
……はぁ。危うく声を出しそうになったわ。何度やっても慣れない。……けれど、それが、良いのよ。
あとは、魔法陣に血を垂れ流して……!?
し、視線を感じる!
「……!?」
な、なんか、優等生君がこちらを見ていた気がするんだけど? ……き、気のせいよね。そうよ、気のせいよ!
……さて、これくらいで十分ね。
……意識を血に集中させて、ゼリー状に組み上げる!
……ふう、出来たわ。血の怪物!
まだ私の黒魔術のスキルが足りないせいで小さいのが何匹も出来るんだけどね。一気に大きいのを作れるようになりたいものだわ…………いつものように合体するのを待ちましょう。
……って、やっぱり見ているわよね? 優等生君、見ているわよね?
……見られちゃった? え、これ、見られちゃってるの?
……落ち着くのよ。こういうときこそ平常心よ。私がここで平然とした表情で儀式を進めれば、夢か幻か何かと勘違いするわよ。
と、いうか、目撃されたとして、なんで優等生君は私の方を二度も見たのかしら。私に気がある……ってことではないわよね。恋愛とか興味ないって顔しているし。
だとしたら、何よ……カンニングでもしてるの? ……いやいやいや、それもないわね。優等生君はカンニングをするまでもないだろうし、私の解答用紙は未だに真っ白よ!(血の怪物がピョンピョン飛び跳ねているけれど)
……うわー、優等生君、頬を思いっきり引っ張ってるー! この時点で夢じゃないのかだいぶ疑ってるー! ……まあ、そうよね。普通はそうなるわよね。……え、何で『そんなこともあるよね』って顔をしているの? ……あ、こっちを向くわ! 私も前を向かないと!
……よしよし、血の怪物たち、ちゃんと一つの塊になっているわね。
とにかく、私が見られていることに気づいたことをバレないようにしないと……表情を引き締めておかないと。
……さて、優等生君が前を向いたことだし、仕上げといきましょうか。
魔法陣に強く念じて……現れなさい!
ふふん、謎の異空間から謎の腕を出す。世界広しと言えでも、こんなことが出来る女子高生は私しかいないわね。
……血の怪物の塊を喰らいなさい。謎の腕!
……って、優等生君また見てるー! 何なのよ貴方! そんなに気になるの!?
……まあ、いいわ。なんかもう、慣れたわ。……慣れてしまったわ!
さて、優等生君が前を向いたことだし、謎の腕、頼んだわよ。
そうそう、優等生君の方をガン見して、なんとなく天井辺りをフヨフヨ彷徨って……って、何やってるのよ。早く戻ってきなさいよ。優等生君に見られて声でもあげられたらどうするのよ。……そして、解答を超スピードで記入する、と。
……ふう。今回も無事に成し遂げる事が出来たわね。
……とりあえず、これで評定は万全だけど、もしも推薦試験に落ちたらセンター試験はどうやって乗り越えようかしら……まあ、落ちた時の事を考えても仕方ないわよね。
「はぁ……」
優等生君が小さく溜息を吐く。……まあ、ショックは大きかったわよね。
「……よし、終了! 集めるぞー!」
「……カンニングなんてするもんじゃないな」
……? 先生の声に重なるように、優等生君、何か言ったわよね? ……え、本当にカンニングしてたの? でも、ここに書かれている解答はちゃんとしているし……
「……ふーん」
……ちょっと、気になってきたかも。
……あ、解答用紙を集めないとね。
「……それ、センターとかでは気をつけろよ。不正行為だと疑われるからな。……ま、優等生のお前のことだから、心配はないけどな。とにかく、体調が悪いときはしっかりと申し出るように!」
「はい……」
……あ、優等生君、注意を受けてる。
……さて、と。
「あの……」
面白そうだし、少し話しかけてみようかしら。
「おわぁ!?」
「へっ!?」
ちょ、ちょっと! 大きい声を出さないでよ!
「えと、その……あなたって、その……面白い、んですね」
……最近誰かと喋ることなんてなかったから、少し変な話し方になってしまったわ。
「………………」
「……?」
黙りこくって、どうしたのかしら?
「はぁー?」
なんか、すっごく変な顔をされてる……
「そ、そうか? 君の方がよっぽど面白いと思うんだけどな」
百点満点の苦笑いね……まあ、いいわ。
「……あ、そうそう」
「……ふぇ?」
……どうしたのかしら?
「二学期の評定って、推薦には全く影響がなかったはずだぞ?」
「……へ?」
……そう、だったの?
「……って、な、なんで、分かったん、ですか?」
「……ああ、うん、さっき、なんとなく気づいたんだ。あの黒魔術みたいなやつで試験を乗り切るなら、センターとか、向いてないだろうし……」
あ、頭の回転が速いわね……
「……それで、面接の方は大丈夫なのか? 今話してるけど、話すのが得意ってタイプじゃないみたいだし」
う……人が気にしていることを……じゃなくって! ほら、数年前までは人並み以上にペラペラと話せていたのよ! クラスの人気者だったのよ! 誰かと話して練習していれば、また話せるようになるわ!
……誰かと話して、練習? ……そうだ。
「……そ、それじゃあ、練習に、付き合って、く、くれませんか?」
「……はぁー? いや、待て……あ、ああ! わかった! ああ、手伝うよ! 手伝わせていただくよ!」
「……?」
どうしたんだろう? いきなり慌てて…………あー。
……黒魔術かー。
最後の優等生君、だいぶヤケクソになっています。