ぼくのステキなおねえちゃん
以前投稿した短編小説
【しゃりしゃりさん】
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を、加筆修正したものです。
ラスト700文字程増えております。
「あっ! 待っててくれたんだ!」
「うん! おねえちゃんといっしょにかえるの、たのしいから!」
「えへへー、ありがとう! うれしいなぁ!」
「でも、さっき、六年生、みんなかえってたから、おねえちゃんもかえっちゃったかもっておもった……」
「だーいじょうぶ大丈夫! ずうっと一緒に帰ってるんだから、君を置いて帰ったりしないよ! ……ごめんね、今日はちょっと、ね、用事があったんだよ」
「そうなんだ……」
「今度からは下足箱じゃなくてアタシの教室の前で待っててほしいな! ……まあ、もうそろそろ卒業するんだけどね」
「……ぼく、さみしいよ、おねえちゃん」
「あはは! もう会えなくなるわけじゃないんだよ? 家も近いんだし、中学校も小学校と近いから、これからもいっぱい会えるよ。……もちろん、アタシも君と一緒に帰れなくなるのはさみしいけど」
「……うん」
「……それじゃ、かえろっか!」
「うん!」
「ねーねー、おねえちゃん! お日さまって、ここから見るとお月さまとおなじくらい大きいけど、ほんとうはお月さまよりすっごくすっごく大きいんだよ! 知ってた?」
「おおー! よく知ってたね! アタシはもう知ってたけど、一年生のときはそんな事全然知らなかったよ!」
「えへへ……」
「……あ、そうだ! 君、ちょっと前に『怖い話が聞きたい!』って言ってたよね! お礼にアタシが知ってる怖い話を教えてあげるよ!」
「ほんとに!? わあい! ありがとう!」
「……えーっと、しゃりしゃりさんって知ってる?」
「しゃりしゃりさん? ……ううん、しらない」
テケテケとか、こっくりさんとか口さけ女とか、すごいはやさでうごくおばあさんとかならしってる。おねえちゃんにおしえてもらったもん。……だけど、しゃりしゃりさん?
「ねえ、それってどんなの? こわいの? おしえて! おねえちゃん!」
おねえちゃんはいろんなことをしってる。ちきゅうが青いっていうことも、ちきゅうはお日さまのまわりをグルグルまわっていることも、ぼくがしらないこわいはなしも、おねえちゃんにいっぱい、いーっぱい、おしえてもらった。
「うん、すっごく怖いんだよ! 夕方より遅くに一人で外を歩いていると、『しゃりしゃり、しゃりしゃり……』っていう音が聞こえてくるんだ。そして、音がする方を見ると、そこには……」
「そ、そこには……?」
「目も耳もない、身体が大きな口だけで出来た化け物がいるんだ。何かを話そうとしているんだけど、しゃりしゃりさんの口の中には砂がたくさん入っていて、うまく話せないんだ。ずっと、『しゃりしゃり、しゃりしゃり……』って音がするだけなの!」
「そ、それで、しゃりしゃりさんにあったら、どうなっちゃうの?」
「……食べられちゃうんだよ。しゃりしゃりさんは、人を食べた後、すぐにその人を吐き出すんだ。そのときに、血で固まった砂の塊も一緒に出てくるんだ」
おねえちゃんのこえが小さくなる。……こわい。
「す、すなをだすために、人をたべちゃうの?」
「うん、そうだよ。だけど、砂は全部出てこないから、しゃりしゃりさんはもっともっと人をたべるんだ」
「……でも、ぼくは、おつかいのかえりに、なんかいも、夕がたにあるいてたけど、しゃりしゃりさんにあったこと、ないよ?」
「……忘れ物だよ」
「……え?」
「今までしゃりしゃりさんに食べられちゃった人は忘れ物をしてたんだって。……忘れ物をしたことを思い出して、取りに戻ろうとすると、会っちゃうんだよ」
「へえ! そうなんだぁ! ……あ!」
……わすれもの?
「んー? どうしたの?」
「しゅ、しゅくだい、わすれてきちゃった! ど、どうしよう!」
「んー、取りに戻らないといけないねー」
「で、でも、もう夕がただし、しゅくだいはあしたがっこうで……」
「こら! だめだよ! 宿題は家でしなくちゃいけないんだから!」
そ、そんなにおこらなくても……
「……大丈夫。アタシがついて行ってあげるから!」
……いつものおねえちゃんもかわいいけど、わらってるおねえちゃんはもっとかわいい。
「ほ、ほんとう!? ありがとう! おねえちゃん! でも、もうすぐおねえちゃんのおうちなのに……」
「だって、 君がしゃりしゃりさんに食べられちゃうなんて、嫌だもん! もし、しゃりしゃりさんに会ったとしても、アタシが守ってあげるよ! ……じゃ、行こう?」
「うん!」
でも、おねえちゃん、わすれもののこととか、なんでしゃりしゃりさんのことをそんなにしってるのかなぁ……?
「君の手、震えているよ? 怖いんだよね。……手、繋ごうか」
「え!? ……で、でも、恥ずかしいよぉ」
おねえちゃんと手をつなぐのも、ぼくのよわむしなところを見られるのも、恥ずかしい。
「だーいじょうぶ! アタシは気にしないから! ……それとも、アタシと手を繋ぐの、嫌?」
「い、いやじゃないよ! ……ん、分かった」
……おねえちゃんの手、あたたかい。
……なんでおねえちゃんがそんなにしってるとか、どうでもいいや。
……おねえちゃん、かっこいい。
……おねえちゃん。
もう君も、中学卒業かぁ、早いねぇ。……立派に育っちゃって。
友達も沢山いて、人気者の君。キラキラと輝いてる。……楽しそうに喋ってるなぁ。
「それじゃあな!」
ん、ここで皆とお別れかぁ。……さて、と。
「……あ! おねえちゃん!」
ふふ、笑顔の君、可愛いなぁ。
「お、今帰ってきたの?」
「うん、部活メンバーで打ち上げ。楽しかったよ! おねえちゃんも、バイト帰り?」
アタシは知ってるよ。アタシと話すときだけこんな口調なんだよね。
「うんっ! 今日も一生懸命働いたぞっと!」
「あはは、お疲れ様! ……あ、おねえちゃん! 卒業記念に二人で写真撮らない?」
「おっ、いいねぇ! 撮ろう撮ろう!」
ひっさしぶりのツーショットだ!
「……あっ、やべっ!」
「……どうしたの?」
「スマホ、カラオケボックスに忘れちゃったよ……」
「はは、忘れん坊だなぁ、君は! 昔からそうだよね!」
ほんと、昔から変わらないなぁ、君は……昔から、変わらない。
アタシも、昔と変わらず君がだいっ好き。
「……えっと、おねえちゃん」
「分かってるよ。ついて行ってあげる!」
「えへへ、サンキュッ! おねえちゃん!」
ふふ、さっきは昔から変わらないって言ったけど、こういうところは積極的になったね……君の手、温かい。
「……ふふ、甘えん坊で怖がりだなぁ、君は」
「おねえちゃんの怖い話の所為だからね! ……特に、アレ、しゃりしゃりさんは怖かったなあ。会う条件とか死に方とかも詳しくて、なんかリアルだったし。僕の周りには知っている人が一人もいなかったから、会っている人は皆死んじゃったんだって思って、凄く怖かったよ。……まあ、そんなの、いるわけないんだけどね」
「あははー! そうだね!」
まあ、『しゃりしゃりさん』はアタシの作り話だからね。
……ずっと、アタシの事を見ていてほしいから、興味を持っていてほしいから、君に面白い知識を与えた。
アタシの事を頼ってほしい。求めてほしい。だから、アタシを求めるように仕向ける話も作った。
「ん、そういえば、君は御架科高校に行くんだよね。……じゃあ、ミカ高OBのアタシは、君の先輩だね!」
「うん、そうだね! ……楽しみだなぁ。おねえちゃんからミカ高の話を聞いてて、すっごく行きたくなったんだ!」
「うん! ミカ高は本っ当に楽しいよ! ……あ、でも、たまにすっごい変な人とか、頭が良いけどすっごい性格が荒いヤンキーとかもいるから、気をつけてね」
「うん、気をつけるよ!」
可愛い君。君のことは、アタシが守るから。
「……あ、そういえば、ミカ高って、イケメンとか綺麗な人とかがたくさんいるんだよね?」
「うーん、そうだねぇー……他校に比べると圧倒的に可愛い女の子とか格好良い男子とかが多かったよ」
「ふーん、そうなんだー。……それはそれで楽しみだね。……なんちゃって」
「ははっ、もー! 君も男の子なんだからー!」
だから、アタシから離れていかないでね。
「あははっ! ……あ、そうそう、おねえちゃん、彼氏とかいないの?」
「え? なんで?」
「いや、そういえば、おねえちゃんからそういう話を聞いたことがないなーって思って……おねえちゃんは、その、美人だからさ、学校でモテたんじゃないかなって……」
「むー! 嫌味ー? 毎年毎年、バレンタインに大量のチョコを貰って帰る君には言われたくないよー!」
アタシは渡されても断ってるのに……
「え、いや、それは、その、断りきれないし……」
君のその優しい性格、危ないよ……
「どうせアタシは彼氏いない歴イコール年齢ですよーだ!」
まあ、別に、アタシは一生それでもいいんだけど。
「はは、僕もだよ。気にしなくていいよ、おねえちゃん」
「あははー、一生そのままかもねー! アタシたち!」
「えぇー……それは嫌だよぉ。父さんも母さんも、『とりあえず孫の顔は見せてくれ』って言ってるし……うぅん、大丈夫かな……」
「はははっ! 流石にそれはないよー!」
「うぅ、おねえちゃん、ヘコませようとしているのか、励まそうとしているのか、どっちなの……?」
「えへへー! さぁて、どっちでしょー!」
「えぇー!? なんなのそれー!」
……あと三年。三年経ったら、ずうっと、ずうっと、一緒にいようね。
アタシ、待ってるよ。