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星々のフォルトゥーナ  作者: 水瀬白露
第一章・ステラの加護
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 ミレットが言うには、ステラを見ることができるのは三歳までの子供とごくごく一部の人間だけらしい。

 そしてステラは自分が宿るものの情報を強制的に見せるため、多くのものを見るたびに頭がおかしくなってしまうらしい。ステラは物に宿るから、基本的に部屋に閉じこもってさえいれば多すぎる情報に押しつぶされることもない。そのためステラを見ることができる人間は本能的に外に出たがらないのだと考えられている、とのことだった。


「へー」


 と、そんなことを言われてもいまいちピンとこない。ステラは見えるし、たまにいろんなことを教えてはくれるけど、知りたくないと思えば何も伝えてこないし、口をつぐむことだってそれなりにある。

 俺がよくわかっていないことをなんとなく察したのか、ミレットは食事の片づけが済むと、俺とレクシアを連れて三年間育った寝室に移動した。

 改めて見ると、本当に何もない部屋だとわかる。途中でベビーベッドは大きなひとつのベッドに変わったけれど、それとクローゼット以外の家具は何一つないのだ。本棚もないから、本は部屋の隅に立て掛けられていて、今まで俺とレクシアが遊んでいたおもちゃを仕舞う箱すらない。


「レクシア、このおもちゃのことをステラは何と言ってた?」


 ミレットはレクシアが気に入っていた積み木を指して、そう聞いた。

 レクシアはちらりとそれを見ると、とんでもないことを言い出した。


「その積み木は星暦782年に初めて作られた星子用のおもちゃです。それ自体が作られたのは星暦5409年星源の月10日13時07分33秒で、今日から二年と十日前です。ステラディア大陸全土に分布しているエトラ木を削りだして作られたもので、これは大陸南ドミナトール森林商業エリアd867t911に星暦5397年に発芽した木で作られています。製作者の名はアルテリオ=セイザール。おもちゃ作りを専門とした星術師です。このおもちゃは製作された十二分後に包装され、その二日後、ドミナトール商業エリアから転移門で大陸北エスターシティの玩具店カカトラックに出荷されました。六日後ミレット=クォジールが購入、その翌日……」


「もういい! わかったから!!」


 たまらくなって俺はレクシアの言葉をさえぎった。いきなりまくしたてられて頭がこれ以上聞くことを拒否する。今のはなんだ? どうしてレクシアがそんなことを……ステラか!

 時折ステラは子供にはわからないだろう、と思えることまで深く教えてくれることがあった。レクシアはおそらく、今まで触れてきたもの全ての情報を見てきたのだろう。


「ありがとう、レクシア。……ねえ、ユエル。あなたはそれを、知らなかったのね?」


「知らない、そんなことは教わってない」


「ステラの情報は決して褪せないの。そしてステラが宿っているもの全ての半生をまざまざと見せ付けられるのよ。一度でも、食べ物の情報を見てしまえば、もうきっとそれは食べられなくなる。余計なことまで全て知ってしまうから……レクシアの説明も、あれでかなり縮小したものなのよ」


「あれで……!?」


 信じられない思いでレクシアを見ると、レクシアはただ黙ってこくんと頷いた。それから不思議そうに俺を見つめ、何かを考えてから疑問を投げかけた。


「でも、兄さんだってステラのことや言葉はしっかりわかってるじゃないか」


「確かに、そういうのは教わったけど」


「教わるなんてものじゃないよ。見せ付けられて刻み込まれるんだ」


「そんな感覚じゃない。なんか伝わってくるって感じだ。あとは本読んでるみたいな感じ」


 俺とレクシアは初めて知ったお互いとの差異に驚きを隠せなかった。毎日同じものを見て、同じことをして、同じようなことを感じていたと思っていたのに、そうではなかった。

 レクシアは俺よりこの世界のずっと多くのものを見て育ってきていた。


「ねえ、レクシア。レクシアなら、ユエルの情報も見れたでしょう?」


 ミレットがそう言うと、レクシアは首を横に振った。


「兄さんの情報は、俺の双子の兄ってことと名前だけだよ。後は何もわからない。俺はてっきり、生まれたばかりで情報がないんだと思ってたんだ。当然俺もそうだって……」


「そう……ユエルには、何かあるのは間違いなさそうね」


 何かを思い悩んでいたミレットは、ふいに俺を見て不思議そうに首をかしげた。


「それにしても、ほとんど何も知らないで育ったなんて……それでもちゃんと知性を持っているのはレクシアと一緒に育ったからなのかしら」


 その答えはもちろん、俺が転生者であるからだが、それを説明するわけにはいかない。説明したくもない。何も知らないまっさらな子供の中に、高校生の記憶が入っているなんて知られたら気味悪がられるに決まっているからだ。


「ステラからあれほど詳しくは教わってないけど、それでも常識くらいは知ってるはず……」


 比べるものがあいまいだから自信なくなって尻すぼみになるが、それでもステラについてはかなり深く教わったし、言葉だって何の問題もなく話せる。


「そうね。でも、ユエル……ステラが見えることは絶対、他の人に言っては駄目よ。レクシアも。約束できるわね」


「「わかった」」


 転生したからの一言では納得できない異常なのは理解したから、俺はその約束を破らないようにしようと心に決めた。

 だけど、ステラが見えるのには、そしてステラに影響されないのには、きっと意味があるはずだ。

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