6
ステラディアの人間はステラの加護が離れる直前、身体も精神も成長するらしい。なぜかは知らないが、生命力の源であるステラらしい贈り物のような気もする。
「昔の人はそれこそ一瞬で大人になってしまったらしいわ」
「子供には子供の楽しみってのがあると思うんだけどな」
「子供のくせに何言ってるの?」
「兄さんは変な人だから」
「え……」
果てしないショックを受けた。弟に変人扱いされるのがこんなにこたえることだとは思いもしなかった……。
レクシアは天使のような笑顔で常ににこにことしている。
「冗談だよ。俺、兄さんのこと好きだよ」
「あー、はいはい。俺もだよ」
やたら気恥ずかしいやりとりを片方は無邪気な笑顔で、片方は照れてそっぽを向きつつしているのをミレットが微笑ましそうに眺めているのに気付き、心臓に冷や汗をかく思いをしたりしている今何をしているのかと言うと、寝室を出てダイニングで初めての食事をしているところだった。
ステラの加護が離れてしばらくすると俺たちは空腹を感じるようになった。俺にとっては久々の感覚でおかしく感じたものだが、レクシアはこの感覚が何なのかわからずやたら困惑していた。
食べることを知らないレクシアに空腹というのを教えるために、俺はレクシアを連れて寝室を出た。
はじめはためらっていたレクシアも、意を決して俺についてきた。そしてミレットの待つキッチンにやってきて『お腹減った』と伝えたのだ。
ステラディアでのはじめての食事はサンドウィッチだった。はさんであるのは卵だったりベーコンレタスだったりとなじみ深いものである。
最初は流動食とかじゃないと胃がびっくりするんじゃないかと思ったが、胃も歯も平気らしい。ステラというのは本当に常識外れだ。いや、この世界では常識なんだろうけど。
「美味しい!」
初めての食事にレクシアは無邪気に美味しいを連発している。何もかもが初めてで新鮮なのだろう。俺としては今のところ想像外のものはステラ以外にはなかったので少し安心していたところだ。
家の内装は地球の先進国の家とそう変わらない。ただ道具に関してはこちらの方がよっぽど使いやすそうだ。一つ一つにステラが組み込まれているのが見える。瓶のふたが開かないとかないんだろうな。
「ふふ。よかった。ユエルもいっぱい……食べてるわね」
「当然だろ」
レクシアが美味しい美味しいと言っている間にも俺はもりもりサンドウィッチを食べていた。久々の食事に没頭してしまうのは致し方ない。
人心地ついて、俺は窓から外を眺めた。割と広い庭だ。あれくらいあれば薙刀を振るうことも出来るだろう。
俺は神の話を忘れてはいない。俺の薙刀の腕がこの世界を救うと言っていたし、時間がないようなことも言っていた。ステラディアに転生してから、俺はまだ一度も薙刀どころか棒も振るっていない。しかも新しい身体なのに『体が覚えている』も何もないはずだ。確かに薙刀の振るい方は記憶にあるが、普通に考えて一から鍛錬し直しだろう。
今日早速良い感じの棒を探そう、と思っているとミレットが予想外のことを言った。
「二人とも春から学園ね」
「「学園?」」
突然のことに、俺はびっくりして、レクシアは不思議そうに聞き返した。
「そう、いろんなことを勉強したり、友達を作ったりするの」
「友達……」
「えー、勉強ぉー?」
今度はレクシアとは被らなかった。レクシアは本でしか知らない友達を夢見て、俺は勉強という単語に条件反射で不満を漏らした。
生前での俺の成績は悪くはなかった。強い薙刀部のある学校はそれなりの進学校でもあった。基本めんどくさがりだった俺はいつもテスト前に一夜漬けしていたことを思い出す。
しかもここは地球の常識外元素、ステラがいる。1+1は2だろうが生前勉強した内容はほとんど意味がなくなっているだろう。暗号文として日本語は使えるかもしれない。言葉は違うし。
「そーよ。もうステラは見えないでしょ。だからちゃんと勉強しなきゃ」
「え?」
ミレットの言っている意味が分からず、思わず聞き返す。何て言った? ステラが……
「見える、けど……?」
「「……え?」」




