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星々のフォルトゥーナ  作者: 水瀬白露
第一章・ステラの加護
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3

 夕方になって母が帰ってきた。ところで一歳の子供を家に置き去りにするのはこの世界の常識なのだろうか。疑問に思った瞬間答えが返ってきた。三歳までの子供はステラが無条件で守り育てるらしい。ステラの与える生命力だけですくすく丈夫に育つから食事もお風呂もいらないのだとか。何それチート。ベビーシッターいらずだね。すると今度はステラが疑問を投げかけてきた。ベビーシッターっていうのは親の代わりに子供の面倒を見てくれる人のことだよ。


「ユエル、レクシア! ただいま。良い子にしてた?」


 部屋の扉を開けて母ミレットが駆け寄ってきた。そのまま寄り合って固まってた俺たちをぎゅっと抱きしめる。ふわりと優しい香りがして心が緩むのを感じた。生前だったら気恥ずかしくてありえないが、子供の身体では不思議と受け入れられた。


「はぁ、天使……神様、この子たちの元に私を導いてくださってありがとうございます」


 ミレットの言葉に引っかかるものを感じた。順番が逆ではないだろうか……。

 その後も、ミレットはことあるごとに『神様、この子たちの元に私を導いてくださってありがとうございます』と呟いていた。俺は徐々に疑問を確信に変えて行った。

 ミレットは俺たちの実の母ではない。するとレクシアも俺の実の弟か怪しくなってくるが――何せ双子のくせに髪の色からまったく違う。レクシアは蒼銀で俺は金だ――間違いなく双子の兄弟だとステラに断言された。

 ステラは時に何も示さないことがあるが、嘘はつかない。それもステラ情報だが、疑う気にはなれなかった。むしろそんなことわざわざ言われなくても知っているというような感覚があったくらいだ。

 それはともかく、ミレットは俺たちを置いて出かけることが良くあった。最初のうちはなんでかはわからなかったが、それもすぐに解決した。

 ミレットには夫がいなかった。両親がいるかもわからない。つまり生きていくため、俺たちを育てるために働きに出ているのだ。おそらく捨て子だった俺たちは金など持っていなかっただろう。ステラの生命力によって飲まず食わずでも生きていけるとはいえ、衣服代やステラの加護から離れる三歳から先の出費を考えれば、今から働いて金を稼がなければならないだろう。

 ミレットは実の母じゃない。けれど抱きしめられた時に感じる愛情に偽りはないと思ったから、俺にとってはそんなことは問題ではなかった。二度目の人生だしね。


 ステラはとにかく弟のレクシアを可愛がっていた。俺が早々に自立心を得てしまったからか、元よりかなり愛されていたからか、とにかくレクシアは望むこと全てをステラから与えられていた。

 レクシアが笑えば部屋中のステラが歓喜し、光の花が降る。レクシアが泣けばステラは全力でレクシアを泣かせた原因を排除しようとする。レクシアが癇癪を起こせば影響されたステラが小さな地震すら起こした。

 ステラはレクシアの感情をより強く引き出そうとするため、レクシアをなだめるのは俺やミレットの仕事だった。

 しかしミレットはずっと俺たちの傍にいるわけにはいかないから、必然的にレクシアの面倒を見るのは俺になる。

 機嫌よく笑っているぶんにはいいのだが、笑いすぎると苦しくなるのか泣きはじめるため、ステラがレクシアを過剰に喜ばせようとしたらその視界を遮るために布団を引きずってきてかぶせたり(布団の中でステラが余計なことをしないように見張るため一緒にかぶる)、泣きはじめたら後ろから抱きしめてひたすら頭を撫でてなだめたり(前から撫でたら余計泣いた。俺の顔ってそんな怖いの?)、癇癪を起こせば仕方ないから一度怒って泣かせたところでひたすらなだめ続けたり……と、双子の弟なのにまるで子育てをしている気分になる。

 そうしているうちにレクシアは犬のように俺になつき、一歳児には広い部屋だというのにずっと俺の横をついてまわるようになった。しかもその天使のような顔に心からの信頼を見せてくるのだから可愛く思えて仕方なくなる。そして気合を入れて面倒を見るようになる。ますますなつかれる。

 自由に身動きが取れなくなったと気付いたのは、ドアノブに手をかけられるようになった二歳のときだった。

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